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(1)精神科病院における歯科の役割 慈圭病院歯科診療医長 小出康史

小出康史氏

 近年精神科においては、統合失調症だけでなく、うつ病や認知症の患者さんが増加傾向にあります。また、入院治療期間はより短く、さらに入院患者さんの高齢化も問題になってきています。それに伴い歯科の役割も大きく変化してきているのを肌で感じています。

 一昔前、精神科に併設される歯科の役割は主にう蝕(しょく)(むし歯)治療や義歯の作成、口腔(こうくう)ケアでした。しかし現在では歯科も他の職種と連携しながら患者さんの心と体の健康を守るために、治療を行っています。その内容を具体的に記します。

 (1)摂食・嚥下(えんげ)チーム

 一般的に精神科疾患を有する患者さんは、摂食行動(食べるスピード、偏食、食思、嚥下機能)などが精神症状により大きな影響を受けやすく、嚥下障害を抱える患者さんが多数おられます。そこで当院では摂食・嚥下チーム(医師・歯科医師・歯科衛生士・看護師・栄養科・作業療法士・事務部等)でその治療に対応しています。

 また、薬の副作用である唾液分泌低下や感覚機能の低下・錐体(すいたい)外路症状(抗精神病薬などを服用したときにドーパミンの過剰な遮断によって出現する症状)、認知機能の障害などの影響でセルフケアが難しい方には病棟スタッフと連携して口腔ケアを行っています。

 (2)周術期における口腔管理

 当院で入院中にがん等の手術を予定、もしくは実施した患者さんの口腔機能管理を病棟・他院と連携して行っています。正しく口腔管理を行うことで外科手術後の退院日数が少なくなった報告も多数あります。また手術の際の挿管等に伴う動揺歯の誤嚥も未然に防ぐことができます。さらに放射線治療などで影響を受けた口腔粘膜障害、唾液分泌障害の患者さんへの対応もしています。

 (3)その他

 当院では精神科で行うmECT(修正型電気けいれん療法)前の歯科検診や、歯科に来院できない患者さんの往診治療、老健施設への往診、地域の小学校検診も各部署と連携して行っています。

 このように多職種で連携することが患者さんの健康への一助になると考えています。

 また、私の専門は歯周病ですが、この病気は「国民病」と言われるほど多くの方が罹患(りかん)していることがわかっています。さらに、歯周病が増悪することによって、口腔内細菌の増加や炎症性サイトカインが増産されることにより、さまざまな全身疾患と関わりがあることがわかってきています=図。このことからも慈圭病院の歯科では、歯周病治療を通じても患者さんの健康を維持していきたいと考えています。

 今後も微力ながら、歯科から多職種連携を通じて、精神科医療を支えていく所存です。

 歯周病、そのほかお口でお困りのことがあればいつでもご相談ください。

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 慈圭病院(086―262―1191)

 こいで・やすし 岡山操山高校、福岡歯科大学卒業、岡山大学大学院歯周病態学分野修了。博士(歯学)。専門は主に歯周病治療。興生総合病院(三原市)などを経て2011年から慈圭病院に勤務。日本歯周病学会歯周病専門医、日本臨床歯周病学会中国四国支部理事、病院歯科介護研究会理事。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年07月18日 更新)

タグ: 精神疾患慈圭病院

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