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(2)からだへの負担が少ない、早期胃がんの内視鏡的治療 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院外科医 谷浦允厚

谷浦允厚氏

 従来胃がんを取り除く治療としては外科的に胃を切除することが一般的で、胃を全部摘出したり、胃を部分的に切除していました。胃がなくなったり小さくなることにより食事量が減ってしまったり、貧血や低血糖など術後特有の弊害も認めていました。進行胃がんに対しては現在も同様な外科手術が一般的ですが、早期胃がんに対してはより身体的な負担が少なく短期の入院で治療可能な内視鏡治療が発達してきています。

 2006年に胃で初めて保険収載されたこの内視鏡治療をESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)といいます。今では一般的に広く行われており、早期胃がんの標準的な治療になりつつあります。

 胃の壁は内側より粘膜層・粘膜下層・筋層・漿膜(しょうまく)と4層構造になっており、がんは粘膜層より発生し進行するに伴い深層へと進んでいきます。がんが粘膜下層に到達すると、そこには全身につながる血管やリンパ管があり転移を起こす可能性が出てきます。

 ESDは粘膜層にとどまり、リンパ節転移のない早期胃がんが適応となります。

 実際には、内視鏡的に病変の下の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸を注入して病変を浮かせ、専用の高周波ナイフを使用し粘膜を切開し、粘膜下層より剥離して病変を切除します。切除した病変を病理検査に提出しがんの遺残が無いかをチェックします。がんが残っていたり、粘膜下層以深への進展があった場合は、ESDで追加切除したり外科的な胃切除を考慮します。

 手術時間は病変の場所や大きさにより変わりますが1時間前後で終わることが多いです。

 検診の胃カメラよりは時間がかかるため、通常は鎮静剤を使用しうとうとした状態で、できるだけ苦痛の無いようにして行います。おなかを切る外科的な手術ではないため術後の傷の痛みはなく1週間以内で退院になることが多いです。

 ESDの合併症としては、胃の中の切開した傷からの出血や胃に穴が開いてしまう穿孔(せんこう)などがあります。出血を認めた場合は、内視鏡下に止血を行います。穿孔した場合はクリップで閉鎖を行いますが、穴が大きく閉鎖できない場合は外科的な手術が必要になることもあります。

 現在の胃がん治療は低侵襲化が進んでおり、ESDによる治療はその最たるものです。今後ESDの適応は技術や器具の発達によりさらに拡大していくことが期待され、よりからだに優しい胃がん治療が実現していくと思われます。

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 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(086―485―1755)

 たにうら・のぶあつ 近畿大学医学部卒業。2015年よりチクバ外科・胃腸科・肛門科病院に勤務し胃がん・大腸がん・肛門疾患などの手術、内視鏡検査・治療に従事。外科専門医・消化器内視鏡専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年08月01日 更新)

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