文字 

(3)持続可能な救急医療を目指して 岡山市立市民病院救急センター長 桐山英樹

救急患者を受け入れる救急センターのスタッフ。「断らない救急」と「断らないコロナ対応」の両立を目指す

研修医に救急患者の診察方法を指導する指導医(右)。次世代を担う医療者育成も重要課題の一つ

桐山英樹氏

 岡山市立市民病院は2015年5月に現在の北長瀬に新築移転しました。新しい病院で救急センターの果たす役割は大きく、一般市民の方々が安心して生活できるように「断らない救急医療」の実現を目指す『岡山ER』として日々の診療を行ってきました。

 移転当初にはお断りせざるを得なかった患者さんへの医療提供体制も年々充実し、「断らない救急医療」へと一歩ずつ前進しており、当院へ依頼された救急車の95%以上を受け入れる体制を確保しました。

 ところが、20年の新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)のまん延により状況が一変しました。経験のない感染症のまん延であり地域全体が不安を抱えていましたが、これも当院に求められている役割であると認識して診療体制を確保し、これまでに県内最多のコロナ対応を続けてきました。

 しかし、医療スタッフの人員には限界があるため「断らない救急医療」を犠牲にして「断らないコロナ対応」を行ってきたのが現状です。本稿を作成している22年7月時点でも新たな変異株によりコロナ感染患者数は減少していませんが、過去2年間で私たち医療者も一般市民のみなさんも新型コロナウイルス感染症に対する理解が深まっており、正しく恐れるようになってきました。これからは、当院救急センター本来の目標である「断らない救急医療」と「断らないコロナ対応」の両立ができるような運営が必要であると考えています。

 この「断らない救急医療」の実現は当院のみでは困難であり、地域全体での取り組みが必要です。救急車を受け入れる病院同士の協力、病状が安定した後の入院治療を引き継いでいただく病院の協力、通院治療を担っていただく開業医の先生方の協力がなければ実現できません。医療機関同士、医師同士で話し合いを行い、いざという時に安心できる救急医療体制の構築を行っていきます。

 さらに「断らない救急医療」と同時に「待たせない救急医療」が実現可能かどうかも検討しています。受診患者数が多い時間帯に発生する長い待ち時間が救急患者さんの病状に不利益とならないように「トリアージ」にて診察順位を決めています。そのため、診察順が入れ替わることがあるため、受診患者さんのご理解が必要となります。また、全体的な待ち時間をどのようにすれば短縮できるのかという課題にも取り組みを始めています。

 これらの救急医療への取り組みは「現在」のみではなく、「未来」も、そして「もっと未来」も継続しなければなりません。そのためには、次世代を担う医療者の育成も重要課題です。現在も未来も市民の方々が安心して生活できる地域づくりの要になるように持続可能な救急医療を目指します。

     ◇

 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 きりやま・ひでき 岡山大学医学部卒。岡山大学病院、尾道市立市民病院を経て、2001年より岡山市立市民病院脳神経外科に入職。15年より同院救急センター長。日本救急学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、日本頭痛学会専門医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年08月01日 更新)

ページトップへ

ページトップへ