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(2)信頼関係で地域生活を支える~精神科訪問看護~ 慈圭病院訪問看護室室長 河合絵利子

訪問看護室の多職種スタッフ。上段左より西岡作業療法士、上村看護師、正岡精神保健福祉士、河合保健師、下段左より松田看護師、杉原保健師、大月保健師

河合絵利子氏

 訪問スタッフ「おはようございます、河合です。来ましたよ」

 Aさん「待っとったよ。今開けるから入って」

 訪問スタッフ「おじゃまします。調子はどうですか?」

 統合失調症のAさんとの何げないあいさつから訪問看護が始まります。

■ □ ■

 慈圭病院の訪問看護室では、岡山市南区を中心に、現在115人の利用者を7人の多職種スタッフで訪問しています。統合失調症・そううつ病・うつ病・発達障害・アルコール使用障害などを抱える当院の通院患者さんが対象です。

 精神疾患を患うと、症状だけでなく、何らかの生活障害(生活のしづらさ)を抱える方が多く、生活のしづらさも患者さんそれぞれに違います。例えば「食事がとれない」といっても、意欲や食欲の問題、経済的問題、「ごはんに毒が入っている」という妄想や、摂食障害、胃腸障害、歯の問題など患者さんそれぞれです。

 訪問看護では、患者さんのお話を丁寧に聴き、その人なりに問題解決できるように一緒に考え、少しでも楽しく健康な生活が送れるように支援していきます。

 プライバシーへの配慮のため、訪問には私服で行きますし、公用車には病院名など表記していません。

 また、患者さんの地域生活には、症状が安定していることも大切です。そのため服薬の支援や症状の観察、不調時の対応にはとても気を使います。患者さんが困っていることはないか、いつもと違った様子はないか、家族関係など何げない会話を通して把握します。

 そして何よりも、「この人に相談しよう」と思ってもらえるように信頼関係を築くこと、「来てもらってよかった」と思ってもらえるように患者さんのニーズに沿った支援を行うことを心がけています。時には「何でも屋」のような、柔軟な対応が求められます。

 そこで、多職種による支援がいきてきます。健康面、生活面については保健師・看護師が、日中活動や余暇の過ごし方など行動面については作業療法士が、経済的問題や就労支援、福祉サービスの導入や調整など社会面には精神保健福祉士と、それぞれの専門性をいかして活動しています。

■ □ ■

 訪問看護師「…お薬きちんと飲めていますね。Aさんがんばっていますね」

 Aさん「薬はちゃんと飲んどるよ。よく眠れるし、気になることもないよ」

 訪問看護師「よかったです。気になることはいつでも相談してくださいね。来週また来ます」

 Aさん「ありがとう、また来てな」

 笑顔のAさんに訪問スタッフも笑顔になり、次の訪問先へ向かいます。

 (近年はコロナウイルス感染対策のため、換気、アイシールドとマスクの着用、体温測定、訪問前後のアルコール消毒などを徹底し、活動しています)

     ◇

 慈圭病院(086―262―1191)

 かわい・えりこ 国立岡山病院附属看護学校、岡山県公衆衛生看護学校卒業。1994年保健師として慈圭病院に就職。以来、精神科訪問看護に従事。2018年より訪問看護室室長、現在に至る。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年08月01日 更新)

タグ: 精神疾患慈圭病院

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