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老年症候群を見逃さない 健康長寿達成へのカギ

内科部長
杉本 研
1996年、大阪大学医学部卒業後、同大学医学部第4内科非常勤医員に入局。桜橋渡辺病院循環器内科医員、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校医療センター博士研究員などを経て、2020年10月から川崎医科大学総合医療センター内科部長を務める。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本高血圧学会高血圧専門医

 川崎医科大学総合医療センター(岡山市北区中山下)内科部長で同大総合老年医学の杉本研主任教授が「老年症候群を見逃さないことが健康長寿達成へのカギ」と題して、「老年症候群」周知の重要性などについて詳しく解説する。

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―老年症候群とは?

 高齢者、特に75歳以降になると、症状と病気が1対1で関連しない場合が多くなり、臓器別診療では見過ごされる、あるいは対処されない症状・症候がみられるようになる。これを老年症候群といい、「原因はさまざまだが、主に心身の機能が低下して生じ、放置するとQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)を阻害する、高齢者に多くみられる一連の症候」と定義されている。

 老年症候群にはもの忘れ、歩行困難、転倒、食思不振(食欲不振)、夜間頻尿、不眠、関節痛など約50種類ほどある。これらの症候は日常診療においては疾患の治療が優先されるため軽視される傾向にあるが、患者への影響は大きいことを認識する必要がある。老年症候群には複数の疾患や病態が関与するため根本的な治療が難しく、医療だけでなく、看護・介護との連携によって対応する必要がある。

 例えば、転倒は特に入院中に発生すると大きな問題になり、骨折や頭部打撲などが生じるとQOLの低下や予後悪化に直結するため、防がなければならない老年症候群の一つである。不整脈や起立性低血圧などの循環器系疾患、脳血管障害やパーキンソン病などの脳神経系疾患、骨・関節系疾患、眼科疾患といったものに加え、筋力・バランス機能の低下といった加齢に伴う変化、睡眠薬や抗精神病薬、降圧薬などの使用薬剤や数の影響、さらには生活環境因子と転倒の発生に関わる因子は多岐に渡る。外傷に至らないような転倒が生じた際に、なぜ転倒が生じたのかを十分に検討することにより、再転倒を予防することにつながる。

―どう評価するか?

 疾患以外の原因を特定するにあたり、身体的・精神的・社会的な機能低下の状況を把握するのに役立つのが、高齢者総合機能評価やフレイル評価である。

 高齢者総合機能評価とは、患者の疾患を含めた個人の全体像を把握するため、ADLや認知機能、情緒・気分、社会的要素、家庭環境、栄養状態などを、確立されたツールを用いて評価する方法であり、スコア化されるために領域間・職種間で問題点を共有することができるため非常に有用である。

 例えばさきほどの転倒において、認知症と診断されていなくても潜在的な認知機能低下、またはうつ傾向のせん妄への影響、服薬アドヒアランスや低栄養の薬効への影響などの関与を明らかにできる。より簡便に身体的・精神的・社会的な変化を捉えるにはフレイル評価が有用である。JーCHS基準は主に身体的フレイルの評価法であるが、意図しない体重減少、歩行速度の低下、握力の低下、主観的疲労感、活動性の低下のうち3つ以上が該当すればフレイルと診断する。身体的フレイルの重要な構成要素であるサルコペニアは骨格筋疾患としても位置付けられており、フレイルとともに生活習慣病をはじめ、心不全や慢性腎臓病、骨粗鬆症(しょうしょう)や悪性腫瘍などの疾患、さらには転倒、排尿障害、嚥下(えんげ)障害といった老年症候群との関連が大きいことで注目されている。

 いずれの評価も、普段の診療では特定が難しい問題点の抽出につながり、それらが老年症候群に留まらず、併存疾患の病勢や治療状況の改善にもつながる場合がある。

―どう対応するか?

 高齢者総合機能評価やフレイル評価などにより問題点が明確化した後、改善可能なものと改善が難しいものに分け、改善可能なものについては医療だけでなく多職種で対応する。具体的には併存疾患に対して使用されている薬剤の調整、機能低下に対するリハビリや栄養介入、環境調整をそれぞれの専門職に依頼して実施し、適宜フィードバックしながら症候が軽減または消失するまで継続する。

 しかし実際には、これらの評価や抽出された問題点への介入を誰が指示し、効果判定するのかが問題となる。本来は老年科専門医やリハビリテーション科医が担うべきであるが、数が少ないこと、また老年症候群に対する認識が十分でないなどの解決すべき問題は多い。外科や腫瘍科領域では老年科との連携を強化する動きもみられてきており、高齢患者の健康寿命の延伸の実現につなげたい。

―川崎医科大学総合医療センターでの取り組み

 フレイル、ポリファーマシー外来では、老年症候群で悩んでいる患者を紹介してもらっている。原因疾患があれば特定し、なければ機能評価やフレイル評価をしている。問題点を抽出し介入し、リハビリを行うために介護保険を導入したり、医療だけではなく看護・介護まで橋渡しを行っている。ぜひフレイル、ポリファーマシー外来を利用してほしい。

―おわりに

 「老年症候群」は、対象となる高齢者にはもちろん、子ども世代にも理解してもらい、症状を見逃さないで欲しい。高齢者こそ動かないといけないし、高齢者こそ活動的でないとダメだというところを強調したい。もし本人が「年のせい」だからと言っても、「もっともっといろいろできることを頑張ってやってほしい」という言い方をしている。そうしないとなかなか解決できない問題だと考える。




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(2022年08月24日 更新)

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