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(5)急性白血病に対する新規薬剤による治療 岡山市立市民病院血液・腫瘍センター副センター長 血液内科主任部長 山本和彦

空気中のウイルスや細菌などを除去・管理するバイオクリーンルーム(BCR)。岡山市立市民病院は10床を設けている

山本和彦氏

 血液内科で診療する悪性腫瘍は、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫に大別されます。

 代表的疾患である白血病は、わが国の高齢化とともに年々増加傾向にあります。白血病は若い人に多い病気というイメージがあるかもしれませんが、実際は図1のグラフのように高齢者の発症率が高いです。また、男性が多いのは喫煙と骨髄性白血病との関連があるからです。小児から20歳代でかかるがんの中では白血病は発生頻度が高いので、注目されやすい傾向があるのだと思います。

 急性白血病は骨髄性とリンパ性に分類されます。治療で使う薬剤は異なりますが、強力な化学療法により白血病細胞の根絶を目指していきます。また、治療経過によっては造血幹細胞移植を選択する場合もあります。最近になって、急性白血病に対して使用できる新規の分子標的治療薬が増えてきました。分子標的治療薬には、がんの原因となる遺伝子が産生するタンパクを不活化する薬剤、細胞表面に結合する抗体でがん細胞を攻撃する薬剤などがあります。

 急性骨髄性白血病に対してはアザシチジンというDNAメチル化阻害剤が適応となり、さらに、細胞の自然死(アポトーシス)を制御するタンパクBcl―2の阻害剤であるベネトクラクスを併用した治療が行えるようになりました。こちらは高齢の方や併発症により強力な治療が困難な方にも行いやすく、従来の化学療法では効果が得られない方にも奏功する場合のある、大変期待が持てる治療法です。

 一方、再発・難治性の急性リンパ性白血病に対しては、白血病細胞に発現したCD22に対する抗体に抗がん剤を結合させた薬剤が使えるようになりました。また、BiTE抗体という2種類の抗体をつないだブリナツモマブという製剤は、白血病細胞とT細胞をくっつけることで、T細胞により白血病細胞を攻撃しようという薬剤です=図2。近年、体内に元々ある免疫システムを使ってがん細胞を攻撃する薬剤が増えてきています。

 当院においても、従来の抗がん剤より副作用が少ないこれらの治療薬を積極的に導入しています。

 当院は岡山市内だけでなく、県北部、他県からも血液疾患の患者さんを受け入れています。バイオクリーンルーム(BCR)10床を備え、高度の免疫機能低下を伴う化学療法を行っています。

 医師、看護師、理学療法士、薬剤師、ソーシャルワーカー、栄養士など多職種のスタッフと共に、個々の患者さんに合わせた最適な治療を目指しています。そして地域の皆さまの健康に貢献できればと考えています。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 やまもと・かずひこ 岡山一宮高校、鳥取大学医学部卒。岡山大学病院、神戸市立西市民病院、呉共済病院、公立周桑病院で研修後、岡山大学病院第二内科医員、川崎医科大学免疫学助教として勤務後、2003年より米マウント・サイナイ医科大学、NSLIJファインスタイン研究所への留学を経て、06年より岡山市立市民病院に勤務。09年より同院血液・腫瘍センター副センター長。日本血液学会専門医・指導医・評議員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年09月19日 更新)

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