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(3)肺がんの確実な診断のための一手 岡山ろうさい病院呼吸器内科医師 原尚史

原尚史氏

 肺がんはわが国において毎年12万人以上が発症し、7万人以上が命を落とすという、全がん種の中でも死亡数がトップの、悪性腫瘍としては代表的な疾患です。早期がんにおいても進行がんにおいても、近年その診断をいかに確実に、正確に行うかが重要になってきています。

 肺がんは早期発見が難しいと言われますが、運良く検診のレントゲン写真などで肺に腫瘤が見つかった場合、肺がんと診断するためには腫瘍のある部分からがん細胞そのものを採取しなければなりません。その方法としては、CTでみながら胸や背中の外側から針を肺に刺して調べるCTガイド下生検や、全身麻酔で肺の一部とともに腫瘍を直接切除することで診断と治療を同時に行う外科的生検といった方法もありますが、患者さまの負担の少ない方法として、口から内視鏡を挿入し気管を通じて肺の中を調べる気管支鏡検査が第一に選ばれることが多いです。

 以前は、気管支鏡検査による生検というと内視鏡を通して鉗子(かんし)という小さなピンセットを肺の奥深くに挿入し、レントゲンで腫瘤の位置を確認しながらがん細胞を採取していましたが、腫瘤の位置をレントゲンのみで正確に把握することは難しく診断精度は必ずしも高いとは言えませんでした。

 これを解決する手段の一つとして、岡山ろうさい病院では気管支超音波を併用したガイドシース下生検(EBUS―GS)という方法を導入しています=写真。この方法では、気管支カメラからシースという筒状のガイドを腫瘍のある部位に挿入します。超音波で直接気管支の中の状態をみながら腫瘍内にガイドを留置することで、確実に病変部位を捉えたことを確認した上で、がん細胞を採取することができます。

 また、この手法は進行肺がんの診断においても有用です。古来より手術や放射線療法では太刀打ちできず、治療の難しかった進行期の肺がんですが、近年は遺伝子変異を元にした薬物療法や免疫療法といった新たな治療が開発され新しい展望をみせています。

 しかし、こうした治療では薬の「効きやすさ」を推定するためにがん細胞の特性を詳細に調べる必要があり、そのためにたくさんの量のがん細胞を採取して検査を行う必要があります。ガイドシースを用いることで一度の検査で繰り返しがん細胞の採取を行うことができるので、患者さまにがん治療のより効果的な選択肢を提案できる可能性が増えることにつながります。

 いかなる病期の肺がんでも早期発見、早期治療を行うことがとても重要です。ガイドシース法は検査中の出血量も従来の方法に比べて少なく安全面でのメリットもあります。肺がんを疑う異常を指摘された場合はぜひご相談いただければと思います。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 はら・なおふみ 岡山白陵高校、岡山大学医学部卒。同大学病院研修修了。東京ベイ浦安市川医療センター、練馬光が丘病院、岡山大学病院呼吸器内科などを経て2022年より現職。日本内科学会認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年09月19日 更新)

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