文字 

(2)感染性心内膜炎について 津山中央病院心臓血管外科主任部長 増田善逸

増田善逸氏

 感染性心内膜炎とは弁膜症を起こす原因の一つです。主に細菌が心臓の内側、特に弁に付着し、弁自体、さらに弁周囲の構造物を破壊していく病気です。また、血液中にも細菌が存在するため菌血症の状態です。

 ところで、一方向弁として機能している心臓弁ですが、どこにあるのでしょうか? 心臓には通常、四つの部屋があり、上の部屋を心房、下の部屋を心室と呼びます。そして、心房と心室の間に左右に一つずつ、さらに左右の心室の出口に一つずつ、合わせて四つの弁があります=図1

 一般に弁膜症の病態は、開きが悪い=狭窄症、閉じが悪い=閉鎖不全症の二つに分類されますが、感染性心内膜炎では、弁が破壊されますので閉鎖不全に伴う症状(心不全)を引き起こします。

 また、感染部位や、疣贅(ゆうぜい)(菌の塊)の大きさと可動性によっては脳梗塞をはじめ全身の塞栓症を起こす可能性があります。よって、迅速な診断と治療開始が重要となります。

 しかし、感染性心内膜炎は発熱の他、多彩な症状を呈するため早期診断は難しく、不明熱の精査中に見つかる場合がほとんどです。

 外科的治療が必要な場合は、大きく三つあります。

 (1)心不全のコントロールが困難

 (2)抗生剤が効かない(効きにくい)

 (3)塞栓症の危険が高い

 治療時期も病態に合わせて、抗生剤加療開始早期の緊急手術、抗生剤加療数日後の準緊急、数週間投与された後の待機手術があります。

 実際の手術ですが、弁の損傷具合によりますが、弁形成術と弁置換術があります。また、後者に関しては人工弁が使われますが、機械弁、生体弁の2種類が存在します。術式や人工弁、それぞれ特徴がありますので、患者さん、もしくは家族と相談して決めます。

 数年前の本邦のサーベイランスでは513例のうち、313例(61%)が手術を受け、病院死亡率が11%に及ぶと報告があります。当院でも年間5例前後の手術が行われています。

 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が心臓弁や心臓の小さな損傷箇所などに付着して起きます。恐ろしい病気ですが、発症した多くの方が何らかの弁膜症(手術適応でなくても)を持っていたり、細菌が体内に入るきっかけがあったりします。治療中を含めた歯科疾患も細菌が血液中に侵入する原因となりますので、日頃から注意が必要です。

 最後に図2は昨年経験した症例です、不明熱で精査中、大動脈弁閉鎖不全症と疣贅、さらに弁輪部破壊を伴い準緊急手術を施行しました。抗生剤加療をした後に合併症なく自宅退院されました。

     ◇

 津山中央病院(0868―21―8111)

 ますだ・ぜんいち 修道高、岡山大学医学部卒。麻生飯塚病院、主に岡山大学の関連病院で研修を経て、ドイツの心臓センターで勤務。その後、岡山大学病院などを経て2020年より津山中央病院勤務。心臓血管外科専門医、ドイツ心臓外科専門医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年10月04日 更新)

ページトップへ

ページトップへ