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第5回「消化管」 川崎医科大学消化器内科学 梅垣英次特任教授

梅垣英次特任教授

 胃や腸などの消化管の働きはとても重要だ。食べ物を消化して栄養素や水分を吸収したり、不要な物を排泄(はいせつ)するといった生命維持の中核を担うにとどまらず、外界とつながっているがゆえにウイルスや病原菌から身を守るための免疫機能も担っている。近年は腸と脳との連携や、腸内細菌と病気との関係も言われている。川崎学園特別講義第5回は「消化管」がテーマ。川崎医科大学消化器内科学の梅垣英次特任教授に解説してもらった。

■仕組みと働き

 消化管は口から順に食道、胃、小腸、大腸、肛門まであり、その長さは全部で9メートルほどあります。

 【口腔(こうくう)】

 口では、食物をかみ砕いて細かくします(咀嚼、そしゃく)。その際に出る唾液は、糖質を分解する消化酵素のアミラーゼを含み、食道の粘膜をコーティングして守ってくれます。唾液の分泌量は、だいたい1日に1リットルくらいになります。

 【食道】

 食道は長さ25センチくらいの筒状の臓器です。唾液と一緒に咀嚼された食物を胃に運びます。

 【胃】

 胃の主な機能は消化と殺菌にあります。胃液の成分は、タンパク質を溶かしてしまうほど強い胃酸や、タンパク質分解酵素のペプシノーゲン、粘液です。口から入った細菌やウイルスなどの微生物は胃酸で殺菌されます。なぜ自分の胃が溶けないかというと、粘液が胃の粘膜を覆って保護しているからです。

 【小腸】

 小腸は十二指腸、空腸、回腸とあって長さは約6メートルです。消化と、栄養素の吸収が行われます。すい臓で作られた消化酵素と肝臓で作られた胆汁酸が十二指腸で分泌されます。小腸を覆う粘膜にはとても細かな絨毛(じゅうもう)が密集していて、効率よくタンパク質や糖質、脂質、ビタミン、ミネラルといった栄養素を吸収します。

 【大腸】

 大腸は長さ1・6メートルくらいで、水分を吸収し、便を作って排泄します。

 食物は胃から小腸を通って、だいたい5~6時間かけて大腸に到達します。その時の便はまだ泥のような形状です。そこから水分を吸収するのに通常は1、2日かかります。便の多くは水分で、消化されなかった食物繊維や細菌、脱落した腸の粘膜、いろいろな代謝産物(栄養素の分解産物)を含んでいます。

■主な病気

 消化管の病気は時代とともに変わってきています。内視鏡検査で見つかる上部消化管(食道、胃、十二指腸)の疾患は、以前は胃潰瘍や十二指腸潰瘍が多かったのですが、今は逆流性食道炎が増えています。

 【逆流性食道炎】

 逆流性食道炎は胃酸が食道に逆流して食道の粘膜が傷付き、胸焼けなどの不快な症状が出る病気です。増加の背景には、潰瘍などの原因になっていたピロリ菌に感染している人が減り、高齢になっても胃酸が多く出る元気な胃を持つ人が増えたことがあります。食習慣の欧米化によって脂質を多くとるようになったことも胃酸分泌の増加につながっています。

 その胃酸が高齢化によって逆流しやすくなっているのです。食道と胃のつなぎ目には逆流しないように括約筋がキュッと締まっていますが、年をとると緩みます。腰が曲がったり、肥満になるとおなかに圧力がかかって逆流しやすくなります。高血圧や狭心症の治療に用いられるカルシウム拮抗薬(きっこうやく)などは括約筋を緩める要因になります。

 【便秘】

 一方、下部消化管(小腸、大腸)はどうかというと、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、便秘症の患者さんが増えています。

 便秘は日本人にとってポピュラーな疾患です。若いときは女性に多いのですが、高齢になると男性患者が増えてきます。川崎医科大学付属病院消化器内科に来院された患者さんの4割に便秘がありました。かなりの患者さんが便秘で苦労しています。

 便秘のある人はない人に比べて寿命が短い、という欧米のデータもあります。便秘にならないよう、腸内環境を整えることが大切です。ヒポクラテスの格言に「全ての病気は腸から始まる」というのがあります。「腸活」が健康の源です。

■腸内フローラ

 「腸は第2の脳」と言われます。脳の大脳皮質には150億の神経細胞があり、腸にも1億あるといわれています。脳と腸は約2千本の神経繊維でつながり、「脳腸相関」といって緊密に連携しているのです。

 腸といろんな病気との関係も指摘されています。肝臓がんや動脈硬化、糖尿病、アレルギーや自閉症もそうです。鍵を握っているのは「腸内細菌」です。

 腸の中には約千種類、100兆個の細菌がすみ着いています。重さにすると1~2キロ。腸内細菌の集まり(細菌叢、そう)を花畑(フローラ)になぞらえて「腸内フローラ」と呼んでいます。腸内細菌叢が乱れると体調が乱れ、いろんな病気が起きやすくなります。

 だから食生活の改善によって、腸内環境を整えることが健康にはとっても重要です。キーワードは「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」「シンバイオティクス」です。

 プロバイオティクスは、善玉菌そのものである乳酸菌やビフィズス菌などを食べて腸まで届けること。プレバイオティクスは善玉菌の栄養源となるオリゴ糖や食物繊維を取り入れて善玉菌を育てることです。この二つを行うのがシンバイオティクスです。

 最近、注目されている酪酸やプロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸は、善玉菌が作ってくれます。短鎖脂肪酸のメリットは多く、腸や体のエネルギーになる▽消化吸収、排便を促進する▽肥満を予防する▽代謝を促進する▽炎症を抑える▽アレルギーなど免疫機能を調整する―などいいことずくめです。

 腸内フローラを整える食生活は、日本人になじみ深い「医食同源」に立ち返ることでもあります。加えて適度な運動は善玉菌を増やす効果があります。規則正しい睡眠も重要です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年10月17日 更新)

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