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(3)治験とCRC 奥田浩人

奥田浩人氏

 皆さんは薬がどのようにして作られるか想像したことがありますか。

 薬の候補となる化合物の多くは製薬会社や大学の研究室などで創られるものですが、それが新薬として世に出て多くの患者さんに使ってもらえるようになるためには「治験(ちけん)」と呼ばれる臨床試験が必要です。新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬も、治験を経て誕生したのです。

 ■治験とは

 薬の候補を人に使ったときの効き目や安全性について調べることを「臨床試験」といいます。

 その中でも国(厚生労働省)から「くすり」として認めてもらうために行われる試験のことを「治験」といいます。

 治験と聞くと安全性が確立されていないなどネガティブなイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際には医薬品医療機器法やGCP省令(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)などの法令のもと、患者さんの人権を守りながら安全に進められます。

 ■CRCの役割

 治験を立案・計画するのは依頼者と呼ばれる製薬会社ですが、医療機関で実施するためには治療を担当する医師と治験薬の投与を受ける患者さんの協力が欠かせません。

 私たち薬剤師は、薬の候補=治験薬やその関係医薬品の管理や調剤を行う責任を担うとともに、臨床研究コーディネーター(CRC)としても治験に携わっています。

 CRCは医師と患者さんの間に立ち、医療機関において治験が円滑に行われるようにサポートする役割を担っています。

 ■患者さんの納得と安心

 CRCが医師と患者さんの架け橋となる一場面を紹介します。

 治験参加に際し、診察室で医師が治験の目的や方法、治験薬の予想される効果や副作用などを説明します。その後、CRCが治験スケジュール、検査項目、費用などの情報を丁寧に補足説明します。患者さんから治験に関する質問・相談があればそれにも答えます。説明や疑問点解消のため、気付けば1時間近くたっていることも少なくありません。

 私が一番大切にしていることは、「患者さんが納得した上で安心して治験に参加できるように、判断するための適切な情報と十分な時間を提供すること」です。

 その他にも治験期間中は、診察前に服薬状況や体調変化などを細やかに聞き取りし、検査データを確認した上で治療の継続に影響する副作用がでていないか医師と連携して確認します。患者さんが新たに併用する薬がある場合には、治験薬との“飲み合わせ”についても一つ一つ確認するなど、薬剤師としての知識も活用しています。

 このように患者さんから効果や副作用のデータを集めることで、最終的に国から「くすり」として認められることにつながります。その一端を担うCRCは、医師と目の前の患者さんだけでなく、「未来の患者さん」との架け橋ともいえる存在です。

 おくだ・ひろと 京都薬科大学薬学部卒。同大学大学院薬学研究科博士課程修了。2011年に岡山大学病院薬剤部入職。14年より新医療研究開発センター治験推進部兼任。主にがん領域の臨床試験を担当。17年よりISO9001品質管理責任者兼任。日本臨床薬理学会認定CRC。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年11月07日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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