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脳と心は別物?議論や実験紹介 川崎医療福祉大学公開セミナー 視能療法学科 細川貴之准教授

心と脳の関係について話す細川貴之准教授=10月8日、川崎医療福祉大学

 「心って、いったい何だろう」―。心や脳を巡っては、古来からさまざまな学問領域で論じられてきた。代表的な考え方として、物質である脳が心を生み出す「心身一元論」と、脳と心は別物とする「心身二元論」がある。10月8日、川崎医療福祉大学(倉敷市松島)で開かれた学科公開セミナーで、視能療法学科の細川貴之准教授(神経生理学)は「この議論は、いまだに結論は出ていない」とし、神経科学や最新の人工知能研究の成果も踏まえながら「脳と心の不思議な話」と題して講演した。

 細川准教授は、米国の生理学者、ベンジャミン・リベットが1980年代に行った実験を紹介し、「われわれは普段、心で思ったから体が動いていると考えているが、実はそうではないかもしれない」―と問題提起した。

 リベットの実験は、人が自分の意思で選択し、行動する「自由意思」について調べた。被験者の、手を動かそうという意思が生じた瞬間と、動かすための脳活動(脳波)のタイミング、実際の手の動きを時間的に調べた。一般には、意思が生じたことで脳が活動すると思われているが、実験の結果は違った。意思が生じる前に、手を動かすための脳活動の準備(電気的活動)は始まっていた。

 つまり、心が体を動かしていたわけではなく、体を動かす準備が整った結果、動かそうという意思が生じたと解釈された。心は脳に従属しているということを意味し、二元論の否定につながる。「この結果を巡り、当時の神経科学や哲学の分野で大論争が起きた」と細川准教授は述べた。

 では、いったい心とは何なのか、一元論と二元論はどちらが正しいのか。

 細川准教授は「実体のない心が、物理現象とは別に存在するという心身二元論は、リベットの研究で示されたように、神経科学的な観点からは受け入れにくい」と指摘した。

 さらに、「心は対象(相手)に対して感じるものであり、他者がいなかったり、言葉がなかったりしたら心は生じない」と論じた。人類が複雑な言語を獲得して虚構を信じる能力を持ち、集団を形成したことを背景に、心とは、人と人とのネットワークの中で生じている状況(情報)を、脳がメタ認知的に言語解釈したもの―とも説明。それによって「1個体の脳が独立して心を生み出しているという心身一元論も正しくないのではないか」とした。

 細川准教授は「心とは個人の内部にある独自のものではない。周りの状況や相手(対象)との関係性、人と人とのネットワークの中から生まれてくるものが心であり、私は『情報ネットワーク一元論』を唱えている」と述べた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年11月07日 更新)

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