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(2)一刻を争う大動脈解離 心臓病センター榊原病院心臓血管外科主任部長 平岡有努

平岡有努主任部長

 大動脈は人間の体内で一番太い血管であり、心臓から起始し頭部を含めた上半身に血液を送り、背側を通り下半身に血液を送ります。

 大動脈の正常径は4センチ以内であり、それを超えてくると拡大傾向と判断されます。大動脈疾患は、大きく大動脈瘤(りゅう)と解離に分けられ、大動脈瘤とは径の拡大により瘤を形成した状態です。ガイドラインでは腹部大動脈瘤は男性55ミリ以上、女性50ミリ以上、胸部大動脈瘤は55ミリ以上で侵襲的治療が推奨されています。

 大動脈瘤は、無症状であることが多く、大きくなるまで気づかれないこともしばしばありますが、破裂すると大出血をきたし、致命的になるため胸部レントゲン写真の異常や腹部の超音波、または腹部の拍動性腫瘤の触知などで早めの診断が望まれます。

 一方、大動脈解離は急性発症し、多くは突然の胸背部痛で発症し、3層構造をしている大動脈の内側に亀裂が入ることにより生じます。

 解離の及ぶ場所により治療法が異なり、頭・上肢への血管が起始する中枢の解離はA型、それより末梢はB型と診断され、合併症のないB型解離は降圧療法が選択、A型は急変リスクが高いことから緊急手術になることが多いです。A型解離に対する治療法は、開胸による人工血管置換術が一般的ですが、合併症を伴うB型解離に対してはカテーテルによる血管内治療を行う場合もあります。

 大動脈解離は予兆なく発症し特にA型では急変リスクが高く、緊急手術までに急変することや、手術を行っても脳障害など臓器障害が残存することがあります。また、手術により救命できても、解離が残存し追加の治療が必要になることも多いのが現状です。そのため、術後も定期的な画像診断によるフォローが必要となります。

 高齢者に比較的多い病気ですが、最近では若年者にも発症するのを経験しています。予兆がないため、未然に防ぐことは難しい面もありますが、いわゆる生活習慣病(高血圧・高脂血症・糖尿病)や喫煙などがリスクとなるため、まずは生活習慣を見直し、解離を発症しないように努めることが重要です。

 当院は1人でも多くの方の救命を目指し大動脈解離の緊急手術を原則24時間365日体制で受け入れており、全国でも屈指の治療成績を誇ります。もともと大動脈が瘤化している方は無症状でも解離発症リスクが高いので、胸部レントゲン写真での異常が指摘されるなど、気になることがありましたらいつでもご相談ください。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)。

 ひらおか・あるど 京都大学医学部卒業。同大学医学部付属病院、心臓病センター榊原病院、米国ペンシルバニア大学クリニカルリサーチフェロー、大阪大学付属病院などを経て2016年から心臓病センター榊原病院外科部長、20年に同外科主任部長。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年11月07日 更新)

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