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乳房再建、リンパ浮腫、眼瞼下垂について

形成外科・美容外科部長
山下 修二
2001年、岡山大学医学部卒業。医学博士。MDアンダーソン癌センター形成外科(Texas, USA)に留学。東京大学形成外科助教、特任講師を経て2022年5月より川崎医科大学形成外科学主任教授。専門はマイクロサージャリー、乳房再建、頭頸部再建、リンパ浮腫、眼瞼下垂。

 川崎医科大学附属病院(倉敷市松島)形成外科・美容外科の山下修二部長に、マイクロサージャリー(微小外科)による乳房再建、リンパ浮腫治療と高齢者に多い眼瞼下垂(がんけんかすい)について聞いた。

⇒インタビュー動画

―川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科での主な取り組みについて

 得意分野であるマイクロサージャリーに取り組んでいる。マイクロサージャリーとは手術用顕微鏡を用いて、血管・リンパ管・神経などを吻合(ふんごう)する手技のことを指す。現在、マイクロサージャリーを使ったさまざまな再建手術が行われており、脈管の口径は0.3ミリ前後の吻合が可能。特にこの手技のことは“スーパーマイクロサージャリー”と呼ばれ、この分野について日本は世界的にも評価されている。

―マイクロサージャリーとはどのような手技か

 マイクロサージャリーは手術用顕微鏡と非常に精密な手術道具を用いて行う。口径1~2ミリの血管の吻合や針糸は一番細いもので50マイクロメートルのものを使用して、一番細い血管で0.3ミリを吻合する。血管・リンパ管・神経をつなぐことで組織の移植や神経の再建、リンパ浮腫の治療を行っている。

―マイクロサージャリーを駆使した手術にはどのようなものがあるか

 マイクロサージャリーの魅力は、従来の方法では十分に治療できなかった病気に対し、この手技を導入することで飛躍的に治療効果を向上させることが可能となったことだ。代表的なものには乳房再建が挙げられ、マイクロサージャリーを用いて乳房を再建し、乳がんで失ったボディーイメージを回復できる。また、頭頸(けい)部再建は耳鼻科と合同で行う手術で、頭頸部がん切除後に整容的・機能的に再建を行う。四肢再建では、整形外科領域で悪性軟部腫瘍切除後に欠損再建を行う。四肢の外傷にも応用され、切断指など一度切断された組織の血管を吻合することで再び接合することができる。最近では、リンパ浮腫に対してもリンパ管を吻合することが可能となり、むくみを軽減する治療にも応用されている。難治性下腿(かたい)潰瘍では、糖尿病性足壊疽(えそ)や重症虚血肢などの難治性潰瘍に対して、従来の治療法では大切断を余儀なくされていた症例でもマイクロサージャリーにより救うことができ、治療効果が飛躍的に向上している。顔面神経麻痺に対しては、筋肉移植や神経移植を駆使し顔面の形態の回復のみならず機能的な再建も行っている。

―乳房再建について

 乳房再建にはさまざまな方法があるが、代表的なものとして自家組織による再建、人工物による再建、脂肪注入による再建の3つが挙げられる。中でも自家組織による再建は、自分の組織を使用して行う。腹部や大腿部から栄養血管を付した脂肪組織を採取し、マイクロサージャリーを用いて移植する。筋肉の犠牲がほとんどなく侵襲を最小限にした方法でさまざまな部位から脂肪組織を採取することが可能。川崎医科大学附属病院をはじめ国内の医療機関では、腹部から採取する「深下腹壁動脈穿通枝皮弁DIEPflap」、大腿内側「深大腿動脈穿通枝皮弁PAPflap」の二つが主に用いられている。また、背中や腰、臀部からも採取することが可能。人工物による再建では、ティッシュエキスパンダー(風船のようなもの)を使用し、中に水を足して膨らませ皮膚を十分に伸展させた状態でシリコンインプラントと入れ替える。脂肪注入による再建では、脂肪吸引の手技を用いて脂肪細胞を採取し、乳房に移植する。最近では、再生医療も応用しながら脂肪由来幹細胞を付加した脂肪細胞を移植することも行われている。

―メリット・デメリットについて

 自家組織による再建のメリットは、やわらかい組織で再建するため仕上がりが非常に滑らかであり、オリジナルの乳房に近い質感で再建できること。デメリットは、別の場所から組織を採取する必要があるため傷が増えること、また手術時間が長い点が挙げられる。人工物による再建のメリットは、手術時間が短いこと。デメリットは長期経過で見ていくと被膜拘縮といって形が変形する、放射線を照射している症例には適応がない、人工物のため耐久年数で10年に1回の入れ替えを行う必要があることだ。脂肪注入による再建の移植生着率は3~5割程度であり、注入したすべては乳房の組織にはならないことがデメリットだ。また、保険外診療のため自費となる。

―リンパ浮腫について

 リンパ浮腫とは、乳がんや子宮がん・卵巣がんの治療に伴い、リンパの流れが阻害されることで起こる上肢や下肢の病的なむくみのこと。慢性的かつ進行性の病気であり、いったんリンパ浮腫を発症すると一生その病悩に苦しむことになる。乳がん・子宮がんの治療の際、約10%前後発症すると言われている。リンパ管静脈吻合術は、溜まったリンパ液を再び血液循環に戻すための道を造るバイパス術で、我々の教室ではリンパの循環を再建することでむくみを軽減することに積極的に取り組んでいる国内では数少ない施設の一つだ。この手術法は、技術的な難しさから手術を受けることができる施設は限定的であるが、今後さらに新たな術式の開発が進み治療効果が向上していくことが望まれている。

―リンパ浮腫の治療効果について

 リンパ浮腫は、現在完全に根治することはできない。治療ではリンパの循環を再建し、流れを作る。リンパ管は変性するため、リンパ管静脈吻合術やリンパ節移植手術の介入はなるべく早い段階が望ましい。皮下組織の線維化がまだ始まっていない方やリンパ管の機能が残っている方は、治療に反応しやすいため早めに治療を行うことで効果が得られる。

―リンパ浮腫はどのように受診すればいいのか

 一昔前はリンパ浮腫を外科的な方法で治せると医療従事者にも認知されていなかったが、最近では各方面からの働きかけのおかげで認知度が上がってきた。乳がんであれば治療を行った乳腺甲状腺外科の医師から形成外科に紹介してもらうケースも増えてきている。基本的には原疾患を治療してもらった施設に相談してもらえば「形成外科に紹介してリンパ浮腫の治療をする」という流れになると思う。また、リンパ浮腫の患者さんの声をくみ取ったガイドラインを作成中だ。そういったものが行き渡れば、どういう受診経路にすればいいかなどの悩みが解決されるのではないかと考える。

―眼瞼下垂の治療について

 眼瞼下垂とは、まぶたが下がってなかなか自力ではまぶたを上げることができず、視野狭窄が出てくる変性疾患のことで今回は高齢者に多い眼瞼下垂について紹介する。これは、まぶたを挙げるための筋肉である挙筋と瞼板との付着部が年齢を経て、はずれる(ゆるむ)ことで生じる。挙筋の付着部を解剖学的に正常な位置に戻すことで、まぶたが挙がるようになる。局所麻酔で低侵襲かつ短い手術時間で行うことが可能だ。また、手術件数は年々増加しており、高齢者のQOL(生活の質)向上のためには必要不可欠な手術となってきている。

―おわりに

 苦しまれている患者さんに対して、我々も何とかしたいという気持ちを持っている。日々、精進し新しい治療法を考えながら取り組んでいきたい。また今後、難易度の高い手術ができる形成外科医が増えることを望んでいる。


※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年12月07日 更新)

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