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認知症支援には経済的視点重要 岡山県立大の竹本教授が書籍出版

研究をまとめた「認知症のある人への経済支援」を手にする竹本教授

 認知症当事者支援には医療、介護に加え、経済的視点が重要―。介護現場の調査で、こんな課題が浮き彫りになった。低所得者ほど介護サービスを制限し、支援専門員の約半数は経済的理由からサービスを制限する人や利用しない人を担当していた。研究した岡山県立大保健福祉学部の竹本与志人(よしひと)教授は「制限による当事者の健康悪化や家族の負担増大を招かないよう経済支援に力を注ぐ必要がある」と話す。成果は書籍にまとめた。

 竹本教授は、医療機関のソーシャルワーカーを務めた立場から、認知症の当事者や家族を支えるため、2016年度からインタビューやアンケートで西日本にある居宅介護事業所の専門員をはじめ、医療機関、当事者家族らを対象にした実態調査を行ってきた。

 結果を見ると、認知症の高齢者の経済基盤は老齢年金が中心で、とても脆弱(ぜいじゃく)なことが判明。医療費や介護サービス料金の負担は大きく、生活基盤にも影響を及ぼしかねない状況だった。約7割の人が在宅介護サービスの過少利用という先行研究と同様に、経済問題の発生が医療や介護サービスの制限に直結することも明らかになった。

 専門員は医療・介護ニーズがありながら、経済的な理由から各種サービスを導入・増加できない現状があり、導入すると生活が成り立たなくなるというジレンマと闘っていた。

 さらに、社会保障制度の理解度が未熟なことや医療と介護の連携不足などから、経済問題のしわ寄せは、介護現場に偏っていることも顕著になった。

 竹本教授は「在宅療養を支えるには経済的困窮解決が最優先」と結論づけた上で「診断後の早い段階で生活基盤について聞き取りし、有効な手だてを駆使することが大切。多くの専門職や機関が協力しなければ事態は解決しない」と述べた。

 研究をまとめた「認知症のある人への経済支援~介護支援専門員への期待」(法律文化社、税別4500円)では実態のほか、経済問題の評価の仕方、高齢者や若年性認知症の人が使える社会保障制度の紹介と選び方、専門員がスキルアップするための研修プログラム案なども掲載している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年11月18日 更新)

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