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全国糖尿病週間 偏見や差別なくして 日本糖尿病学会と日本糖尿病協会「アドボカシー活動」

ブルーライトで照らし出された岡山城。青色は糖尿病予防啓発のシンボルカラー=14日午後6時40分

岡山県糖尿病対策専門会議や岡山県糖尿病協会のポスター展。糖尿病の実態や、予防と治療に有効な食事内容、運動を紹介していた=JR岡山駅地下通路広場(エキチカ広場)

四方賢一氏

 日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が主催した「全国糖尿病週間」(13~19日)の期間中、病気の正しい理解の普及を目的に、全国各地でブルーライトアップや講演会などの啓発活動が行われた。今年のテーマは「アドボカシー~偏見にNO!」。糖尿病とともに生きる人々が疾患を理由に不利益を被ったり、思い煩うことなく治療を継続し、糖尿病のない人と変わらぬ生活を送れる社会の実現を訴えた。

 「アドボカシー」は権利擁護を意味している。日本糖尿病協会によると、糖尿病がある人は予備群を含めて国内に約2千万人とされ、成人の4人に1人が関係するごく一般的な病気だ。なのに病気への理解は広がっておらず、「寿命が短い」とか「不摂生」「自己管理できない」などの偏見や非難にさらされがちだ。

 協会は、こうした偏見や言われない差別、非難が「スティグマ」(負の烙印(らくいん))となり、患者の孤立を招いていると訴えている。

 健診などで血糖値の異常を指摘されたとしても、スティグマを避けようとして事実を軽視したり、周囲に隠したりしていると治療の遅れにつながりかねない。

 現実には糖尿病がある多くの人々が適切な治療を受けながら、糖尿病のない人と同様に地域や職場、家庭などで活躍している一方で、スティグマによって就職や昇進などの際に不利益を被ったり、住宅ローンや生命保険の加入を断られた―などの実態があるという。

 このため協会と日本糖尿病学会は2019年8月、スティグマの解消に向け合同のアドボカシー委員会を設立した。20年には医療従事者が活用する「糖尿病治療ガイド」(日本糖尿病学会編・著)にスティグマやアドボカシー活動の重要性に関する記述を初めて盛り込んだ。

 21年から今年にかけては糖尿病の病名に関するアンケートを実施。「糖尿病」という病名に患者の9割が抵抗感や不快感を抱き、8割が病名変更を希望していることが分かった。アドボカシー委員会の委員長で協会の山田祐一郎理事は「1~2年の間にこういう病名が良いのではないかという提言をできればと思っている」と言う。

 5月には「糖尿病にまつわることばを見直すプロジェクト」をスタートした。「スティグマを生じうる医療用語から改革する」として、個人の人格や自主性を尊重するため「糖尿病患者」は「糖尿病のある人」へ、「療養指導」は「サポート」や「教育」などに言い換えるよう医療現場や関連企業、マスコミなどに呼びかけている。

岡山県糖尿病協会会長 岡山大学病院新医療研究開発センター教授 四方賢一氏

 岡山県糖尿病協会会長で、岡山大学病院新医療研究開発センター教授の四方賢一氏に、糖尿病患者を巡るスティグマの背景などについて語ってもらった。

     ◇

 糖尿病には1型と2型があります。一般に「生活習慣病」として知られていますが、1型糖尿病は自己免疫の異常やウイルス感染などをきっかけに発症し、生活習慣とは無関係です。幼い子どもであっても、ある日突然発症します。なのに生活習慣が悪かったから糖尿病になったのではないかとみられて、心が傷付いてしまうことがあります。1型糖尿病のある人は数が少なく、その声はなかなか社会には届きません。

 一方、糖尿病の9割以上を占める2型糖尿病は、確かに平素の食生活や運動不足などが発症の大きな要因ではあります。ただ、生活習慣だけでなく、遺伝的な体質も深く関わっていることが最近の研究で分かっています。いくら生活習慣をきちんとしていても、遺伝的な素因が大きければ発症します。同じような生活習慣であっても糖尿病になる人とならない人がいるのです。だから糖尿病は自己責任の病気だとは言えません。そうした基本的な部分の正しい理解が広がっていないのが現状なのです。

 また、糖尿病は合併症が問題になります。血糖値の管理がうまくできずに高血糖の状態が長期間続くと、神経障害や網膜症、腎臓障害、心血管疾患などの合併症が起きやすくなります。

 戦後の高度経済成長期、糖尿病が急激に増えた時代はまだ治療の選択肢が少なく、「寿命が短い」などのマイナスイメージも色濃くありました。実際、当時は糖尿病であるために、就職や昇進などの際に不利に扱われたと話す人はおられました。

 今もそうしたイメージは残っています。糖尿病のある人は不利益を被るのではないかという不安に加え、とりわけ2型の場合は自覚症状がないことも手伝って、自分が糖尿病になっている、あるいはその可能性があるということを隠す、または目をそらしている人もいらっしゃいます。その結果、治療が遅れて重症化し、合併症を招いて命を縮めてしまう可能性があるのです。

 現在、糖尿病治療は飛躍的に進歩しました。新たな薬剤が次々開発されて治療の選択肢は増え、血糖値は管理しやすくなり、合併症も減りました。血糖値が適切に管理されていれば、糖尿病のない人と何ら変わりのない生活を送れるのです。血糖値の管理が難しい1型糖尿病の人で、プロスポーツの第一線で活躍している人もいます。

 今回、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が合同で進めているアドボカシー活動は、糖尿病のある人が負い目を感じたり、肩身の狭い思いをせず、気兼ねなく治療を受けられるような社会の実現を目指しています。学会や協会にとどまらず各医療機関や職場、地域、個人などさまざまなレベルで理解が広がってくれるよう、われわれも一緒になって取り組んでいます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年11月21日 更新)

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