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放置してはいけない!小児のいびきと睡眠時無呼吸

耳鼻咽喉・頭頸部外科部長
原 浩貴
1989年、山口大学医学部卒。医学博士。米チュレーン大病理学教室留学。帰国後、山口大学耳鼻咽喉科講師、准教授を経て2017年4月から川崎医科大学耳鼻咽喉科学主任教授。2021年4月より川崎医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学主任教授。専門は睡眠障害、睡眠時無呼吸症(成人・小児)、音声外科、喉頭癌(がん)、嚥下障害。日本睡眠学会理事。

 川崎医科大学附属病院(倉敷市松島)耳鼻咽喉・頭頸部外科の原浩貴部長に、「放置してはいけない!小児のいびきと睡眠時無呼吸」について聞いた。

⇒インタビュー動画

 今、日本は世界の中でも少子化が進んでいます。これからの日本のテーマは子どもをいかにきちんと育てていくかということです。ここで問題になるのが、日本の子どもたちは世界の子どもたちに比べると非常に睡眠時間が短いことで、1日平均90分ぐらい短いと言われています。これは日本人が睡眠に関してあまりきちんと理解をしていないということが背景にあると思います。子どもの睡眠をおろそかにしておくと頭や身体に大きな問題が起こります。少し前に“キレる”子どもというのが流行りましたが、こういう子どもは睡眠状況が非常に悪く、睡眠不足、あるいは睡眠の質の低下が関係している可能性があります。また、しっかり寝ないと成長ホルモンの分泌が悪くなるので身体が大きくならないということもあります。それ以外にもいろいろな合併症が出てくるので睡眠に関してはしっかりとした理解をもって親が子どもに睡眠の重要性を教えていく、そして自らも実践するということが重要になると考えています。

子どもの睡眠時無呼吸について

 子どもの睡眠時無呼吸の有病率についてはいろいろな集計があります。おおよそ子どもの人口の数パーセントはあると言われていますが、私自身の印象では20%ぐらいは隠れているのではないかと思っており、非常に多い病気だと思っています。子どもの睡眠時無呼吸というのは、上気道といわれる鼻からのどまでの息をする通り道が狭くなっていることが多いです。その場合、寝ているときに十分に息が吸えなくなり、狭いところを一生懸命呼吸することで大きな音(いびき)がでる、という状況になります。遊び疲れて寝入りばなにだけかいているいびきは心配ありませんが、毎晩のようにかくいびきは危険信号です。

原因は?

 主な原因はのどにある免疫組織であるアデノイドや口蓋扁桃(扁桃腺)が大きいことです。また、近年有病率が増加しているアレルギー性鼻炎も重要な原因の一つです。空気の通り道である鼻が狭くなっているせいで十分な呼吸ができないため口を開けて呼吸をする、口を開けると、舌がのどの奥に落ちるような動きをするので、口呼吸をしている子どもは無呼吸になりやすいのです。その他、成人と同じように肥満、顎が小さいことなども原因となります。

症状について

 大人の場合は日中の眠気というのがよく言われますが、子どもの症状は大人と少し違って、眠気を言わないことが多いです。睡眠中の症状では、毎日かくいびき、いびきの途中で頻回に寝返りをする、のけぞるような姿勢で寝ている、うつぶせになって寝る、むせてしまって咳き込む、突然起き上がる、ひどい寝汗をかくなどの症状が起こります。また子どもの胸郭は柔軟であることから、睡眠中に呼吸とともに胸がへこんでしまい、胸とおなかの動きが逆向きになることがあります。これも無理な呼吸をしている証拠です。またオムツが取れた後もおねしょが残ってしまう子どももいます。日中に気をつけないといけないのは、いつも口をぽかんと開けている子ども。これは、アレルギー性鼻炎やアデノイド肥大のため鼻から呼吸ができていない可能性が高く、そのような顔をアデノイド顔貌といい、睡眠時無呼吸を疑う所見になります。その他、扁桃腺が大きいと食事にすごく時間がかかり、肉やお刺身などを飲み込めず、吐き出したりすることもあります。また睡眠中の成長ホルモンの分泌が悪くなって低身長になる子どももいます。

 大人であれば10秒以上息が止まっていれば無呼吸とされますが、子どもは呼吸が早いので、2回分の呼吸がとまると1回無呼吸になったという見方をします。少し短い呼吸の停止であっても大人と違って「これは無呼吸だ」と判断しないといけないケースも多いので、知っておいたらいいかもしれません。

治療について

 まず最初は空気の通り道である鼻の通りをよくするためにアレルギー性鼻炎がないかどうかを確認したうえで、アレルギーがある子どもには内服薬や点鼻薬を処方します。内服薬の中には扁桃組織にうまく作用し、ある程度縮小する場合もありますので一か月程度は試していきます。しかし、小さくなるケースばかりではないので、重症度に合わせて次の手として手術を考えるということになります。海外のガイドラインでは、おおむね80%以上の子どもはその手術によって治るので、保存的な治療を少しやってだめなら速やかに手術を行うというのが推奨されています。

治療のタイミングは?

 我々の研究では、6歳代(7歳になる前)までに扁桃腺の手術を行った場合には、身長の伸びの増加がみられました。このことから小学校に入学する前の手術が必要である可能性が高いと言えます。「小学校の中学年ぐらいまで様子をみましょう」、「扁桃腺は中学生になったら小さくなるので様子を見ましょう」、といったことをしていると、中には身体が大きくならないまま成長のタイミングを逸してしまう子どももいる可能性があるため、我々はできるだけ早く手術をした方がいいと考えています。

扁桃腺はとらないほうがいいのでは?

 扁桃腺は小さい子どもにとっては免疫に関係する重要な組織なので、むやみに摘出するということは薦めませんが、摘出しても免疫力の低下は起こさないことは証明されています。睡眠時無呼吸は頭と身体に大きな影響があります。無呼吸がある子どもは、中学生以降の学業成績に大きく影響が出る、脳へのダイメージがある、身体が大きくならないということが言われています。また、扁桃が大きく呼吸がうまくいかない状態をほっておくと、顔が十分に横に広がらないので、狭くて縦長の顔になってしまい、大人になった時に太ってもいないのに無呼吸が出てしまう、ということがあります。それらを考えていくと、扁桃組織が大きいために睡眠時無呼吸の症状が出ていれば、そのまま放置することはせず、我々は必要であれば1、2歳でも手術をしています。

川崎医科大学附属病院での治療の流れは?

 実際に無呼吸がどれぐらいひどいかについて、まず外来でお話をうかがい、さらに寝ているときの動画を撮ってきてもらっています。寝ているときの姿勢、どういう寝汗をかいているか、いびきの音、口が開いているか、呼吸がおかしくないかなどを総合的に見るのは動画がいちばんわかりやすいからです。それを見て手術が必要か、アレルギー性鼻炎の治療が必要かなどを考えていきます。手術になった場合には、できるだけ痛くない手術をしたいと考え、2021年1月からは低侵襲の手術(新しい扁桃の手術)を行っています。

新しい治療法とは?

 扁桃は外に硬い膜があり、その内側に免疫に関係する組織があるのですが、従来の手術は「外の膜ごと、のどの筋肉からはがして摘出する」という方法でした。この場合、摘出後にその奥にあるのどの筋肉が一時的に露出するので、術後の痛みが非常に強く、そこにかさぶたができて治るまでに2週間程度かかってしまいます。物を食べたり飲んだりする時に毎日使う場所なので「痛い」というのはできるだけ避けたい、特に子どもの場合、痛みのために食べる量が減ってくると脱水になったり他にも問題が起こってきてしまいます。そこで我々は2021年1月から新しい扁桃組織の切除法を行っています。ヨーロッパではこの方法が主体になっています。扁桃の外側の膜を残して中をくり抜いてやれば、膜が一枚残っていることで筋肉が露出しない、露出しないので痛みが少なく、表面から出血するリスクも少なくなります。

従来の方法との比較

 従来のやり方で手術をした子どもと比較検討してみたところ、無呼吸はどちらでも治りますが、従来の方法では痛みのために3日ぐらいは食事がとれませんでしたが、新しい方法では痛みがないので翌日には食事ができるようになりました。また痛み止めを使う日数も非常に少なくなります。そして子どもが痛くないと正直に言った日にちが、従来は1週間程度であったが、この方法であればほとんどの子どもが3日目以降は痛いと言わなくなりました。翌日から全く痛くないという子どもも半数いました。やはり膜が一枚残っていることで痛みが少なくなった結果です。出血についても、従来のやり方は、2~4%程度は出血する確率があるとされていましたが、新しい方法であれば500~1000人に1人ぐらいの出血のリスクだと報告されており、実際我々は50人程度やって全く出血はありません。その点でも負担が少ないと言えます。

早期発見のために

 我々耳鼻咽喉科医は、もともといびき、声、扁桃炎など、子どもの無呼吸に関連する場所の病気をよく診ています。小児科に行くか耳鼻科に行くかで迷われる方も多いと思いますが、いびきがはっきりある場合は、のどの診察が重要になりますし、あわせて鼻の診察も重要になります。そして保存的な治療になると鼻やのどの治療になるので、耳鼻科にご相談いただくのがよいでしょう。その後必要に応じて我々にご紹介いただくことになると思います。ぜひ我々の診察前、またかかりつけ医の初診の時にでも寝ている動画を撮っておいてください。病気かどうかわからないという状態で延々と過ごしてしまうということは一番避けたいところです。

 倉敷市は健康づくりに関して、また睡眠に関しても力を入れている行政機関です。我々は倉敷市とも連携して子どもの睡眠の問題に取り組んでいきたいと考えています。


※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年12月19日 更新)

タグ: 耳・鼻・のど子供

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