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第7回「血液」 近藤敏範准教授 川崎医科大学血液内科学

近藤敏範准教授

■成分と役割

 血液は、人体に必要な酸素や栄養素、体のさまざまな機能を調節するホルモンなどを運ぶ大切な役割を果たしている。この血液が体内を絶えず循環していて、われわれの生命は保たれている。川崎学園特別講義第7回は「血液」がテーマ。川崎医科大学血液内科学の近藤敏範准教授に解説してもらった。

 血液は人の生命維持になくてはなりません。血液は赤血球や白血球、血小板という血液細胞の成分と、液体成分の血漿(けっしょう)でできており、その比率はおおむね45%と55%です。

 血液細胞は全て骨の中の骨髄で造られており、主に背骨や腰の骨で造血されています。骨髄中には血液細胞のもとになる造血幹細胞があります。骨髄や腎臓、肝臓などから分泌される造血ホルモンの刺激を受けて、造血幹細胞は赤血球系、白血球系、血小板系の細胞へと分化・成熟します。そして十分成熟した血液細胞だけが血管へと流れていきます。

 血液は血管を通じて心臓から大動脈、中小動脈を経て、さらに細い毛細血管に入ります。体の隅々まで行き渡って細胞や組織に酸素や栄養分を届け、二酸化炭素や不要になった物質を回収します。

 その他にも血液は、細菌やウイルスの感染を防いだりアレルギー反応を起こしたり、出血を止める(止血)といった生体にとって重要な働きを担っています。

 【赤血球】

 赤血球は鉄とビタミンB群を材料にして造られる血液細胞です。酸素や二酸化炭素を運搬する働きがあります。血液中に最も多く存在し、赤い色をしており、血液が赤く見えるのはこの赤血球の色です。ABO式血液型は赤血球の型のことです。

 【白血球】

 白血球には好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球の5種類があり、好中球は主に細菌を殺す働き(殺菌)をしています。好酸球や好塩基球は薬や食物などによるアレルギー反応を引き起こす細胞です。リンパ球は主に免疫反応によって細菌やウイルスから体を守る働きがあります。ワクチン接種による細菌やウイルスに対する抗体の産生もリンパ球が担っています。

 【血小板】

 血小板は、けがなどで血管が破れた際に傷口をふさぐように血小板が凝集して血栓(血小板血栓)を形成し、すみやかに血を止めてくれます。血小板血栓は剥がれやすいので、同時に血漿中にある凝固因子という成分が活性化し、血小板血栓を補強してしっかりとした血栓を形成します。こうして完全に止血されます。

 【血漿】

 血漿のほとんどは水分です。血漿にはリンパ球が産生した抗体や血液凝固因子といったタンパク質、ナトリウムやカリウムといった電解質、糖質などが含まれています。

■主な病気

 何らかの原因で、血液細胞である赤血球、白血球、血小板がうまく造れなくなったり、壊されたりして数が減ったり、逆に腫瘍化(がん化)して数が増え過ぎたりする病気があります。

 【赤血球の病気】

 よく耳にする「貧血」は、何らかの原因で赤血球が減ってしまう状態です。多くは赤血球の材料である鉄やビタミンB群の不足による貧血です。無症状の方もいますが、ひどくなると動悸(どうき)や息切れ、倦怠(けんたい)感といった症状が出ます。特に若年女性では月経による出血量が多かったり、不足した鉄分を補えなくなったりすると鉄不足による鉄欠乏性貧血になります。

 また、胃や腸に潰瘍やポリープ、がんなどがあった場合、そこから慢性的に出血すると鉄欠乏性貧血になります。健康診断などで貧血を指摘された際には、原因を明らかにして適切に治療して繰り返さないようにすることが重要です。

 その他、高齢者の貧血の原因として、造血幹細胞の異常により正常な血液細胞が造れなくなる骨髄異形成症候群という病気があり、社会の高齢化に伴い増加傾向にあります。この病気では貧血に加えて白血球や血小板も減少する場合があります。逆に赤血球が多すぎる場合には、真性赤血球増加症という病気の可能性があります。

 【白血球の病気】

 骨髄中で幼若な白血球系の細胞が腫瘍化した病気を急性白血病といいます。腫瘍化する細胞の起源によって急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病に分けられます。

 急性白血病は、異常な白血病細胞がどんどん増えて骨髄を占拠するので、正常な血液細胞をつくる場所が少なくなって赤血球や血小板も減ってしまいます。このため感染症による発熱や貧血、血が止まらないなどの症状を呈します。

 急性白血病と診断された際には、速やかに入院して治療を開始する必要があります。近年では造血幹細胞移植や分子標的治療薬の開発により治療成績が向上してきています。

 健康診断などで白血球増加を指摘された場合には慢性白血病の可能性があります。症状のない方がほとんどですが、血液内科の受診をお勧めします。

 その他、リンパ球が腫瘍化してリンパ節が腫れてくる悪性リンパ腫や、骨髄中の形質細胞という血液細胞が腫瘍化して貧血や腎障害、腰痛や病的な骨折をきたす多発性骨髄腫も近年増加傾向にあります。

 【血小板の病気】

 血小板が減ると血が止まらない、青あざができるといった軽い症状から、脳出血、胃や腸からの出血(消化管出血)といった重篤な出血症状を呈する場合もあります。

 比較的多いのは自己免疫性血小板減少性紫斑病という、自分の血小板に対する抗体が産生されて血小板が減る病気です。風邪などがきっかけで発症する場合もありますが、多くは原因不明です。ステロイド剤や免疫抑制剤などによる治療を行います。逆に血小板が多すぎる場合には、本態性血小板血症という病気の可能性があります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年12月19日 更新)

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