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心筋梗塞や糖尿病 健診で発症リスク予測 倉敷中央病院とNECソリューションイノベータ

倉敷中央病院情報システム部の藤川敏行部長

倉敷中央病院付属予防医療プラザ。右奥が倉敷中央病院

菊辻徹所長

 倉敷中央病院(倉敷市美和)とNECソリューションイノベータ(東京)は、誰でも手軽に受けられる健康診断の結果から、心筋梗塞や糖尿病といった生活習慣と関わりが深い病気の発症リスクを予測する人工知能(AI)の開発に取り組んでいる。病気を発症していない健常な段階で、数年後の発症リスクを予測する。その内容に応じ、より詳細な検査を勧めたり、各個人の状態に応じた生活習慣の改善や予防的な治療などを盛り込んだオーダーメードのヘルスケアプランを提案したいとしている。

 倉敷中央病院は1172床を有する西日本有数の大規模総合病院。高度先進医療や救命救急医療、予防医療を活用した先制医療などを中心に、地域住民が、できる限り健康なまま年齢を重ね安心して生活できる環境づくりを目指している。

 新しいAIシステムの開発には、倉敷中央病院に蓄積された45万人分のカルテと、病院付属予防医療プラザ(人間ドック・健診施設、倉敷市鶴形)が保有する過去10年分の健康診断のデータを、匿名加工したうえで活用する。健診で、どのような検査結果だった人が、その後どのような経緯で病気を発症しているのかを関連付けて解析し、疾患の発症予測モデルを独自に構築する。

 例えば糖尿病(2型)の発症要因は、食事や運動といった生活習慣だけでなく体質の関与も大きいとされている。今は血糖値が正常範囲で生活習慣に問題は無かったとしても、将来発症する可能性はある。倉敷中央病院情報システム部の藤川敏行部長は「さまざまな検査結果と診療データに基づいたAIの統計的な分析で2年後、3年後の発症リスクを予測できれば、しかも健康診断でそれができれば、広く地域住民の予防医療に貢献できる」と言う。

 課題となるのは予測の正確性だ。NECソリューションイノベータによると、現在は「さまざまなデータを入力して手法も変えながら、発症予測の評価を繰り返している段階」という。トライアンドエラーを積み重ねて精度を高め、来年度以降に製品化して予防医療プラザでの健康診断で活用したい考えだ。当初は心筋梗塞や脳梗塞などの循環器疾患や糖尿病などの内分泌疾患を対象とし、その後、腎臓疾患や肝臓疾患への拡大を検討する。

 倉敷中央病院は2018年からNECと協力し、予防医療の強化に向けて研究を進めてきた。19年に開業した予防医療プラザは、NECの「健診結果予測シミュレーション」を導入している。AIを用いて、生活習慣病と関係が深い体重や腹囲、血圧、血糖値、コレステロールなど9項目の検査値が3年後どのように推移するのかを予測し、健康指導に役立てている。

予防医療プラザ 菊辻徹所長インタビュー 「自分で健康守る」契機に

 年間約5万人が利用する倉敷中央病院付属予防医療プラザは最新の医療機器を駆使し、がんをはじめとする病気の発見に力を注ぐほか、3年後の検査値の変化を予測する健診結果予測シミュレーションを活用した健康指導に取り組んでいる。病気の発症リスクを予測する新たなAIシステムによって何を目指すのか。菊辻徹所長に考えを聞いた。

     ◇

 ―予防医療プラザが目指すところは。

 地域住民の健康維持に貢献できる施設でありたいと思っています。

 健康維持に必要なのは疾病の予防であり、住民一人一人の将来起こりやすい病気を発症前に予測し、治療介入する「先制医療」です。進行した段階で病気が見つかれば、多くの医療費がかかりますし、最新の治療を施したとしても以前の健康を取り戻せない場合が少なくありません。

 ―現在の健診結果予測シミュレーションはどのようなシステムですか。

 過去数万人分の健診データと照らし合わせてAIが分析します。体重や腹囲、血圧、血糖値、コレステロール、中性脂肪などの検査結果が、現在の生活習慣(運動の有無や程度、食事の内容、飲酒など)を続けた場合、3年後にどうなるのか、生活習慣を見直した場合はどう改善するのかを予測し、生活指導も含めて具体的に説明しています。

 例えば、体重80キロ超、血圧は高血圧症レベルで血糖値も糖尿病ラインすれすれだった50代の男性がおられました。現状の生活を続ければ、さらなる数値の悪化をAIは予想しました。AIの予測から、体重を減らすことの大切さを理解していただいた男性は、運動をしてお酒も減らし、2年後には体重を10キロ減らして血圧、血糖値は正常となりました。

 このシミュレーションは、予防医療プラザのデータを活用して私たちが開発したシステムなので「こうしてもらったら、こう改善します」というお話を説得力を持ってお伝えすることができます。だから、皆さん頑張ってくれるのではないかと思っています。

 ―発症リスクを予測するAIシステムを、どう役立てていくのですか。

 体重や血圧などの検査値も大切な指標ですが、訴求力があるのは、やはり病気になるかならないか、というお話だと思います。

 例えば、健診データのAI解析によって「あなたの心臓の冠動脈が狭くなっている可能性があります。今は異常とされる数値は現れていませんが、3年後には狭心症や心筋梗塞が発症する懸念があります。心臓のドックを受けて、詳しく調べてみませんか」という勧奨に結びつけることができると思います。そこで実際に冠動脈の狭窄(きょうさく)が見つかれば、発症を防ぐための医療につながります。

 具体的な病気の危険を提示することによって「自分の健康を自分で守る」という気持ちが芽生えれば、病気にならないように、病気になったとしても軽く済むように手を打つきっかけになると思います。

 ただ、仕事などの関係で、生活習慣や環境を変えることが難しい場合もあります。それでも病気の危険性を受け止めて、現実の中で工夫することを一緒に考えたいと思っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2022年12月19日 更新)

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