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(8)小径腎細胞がんに対するロボット支援手術 津山中央病院泌尿器科医長兼ロボット・内視鏡外科手術センター副センター長 石川勉

手術支援ロボットを使って行った小径腎細胞がんの手術

石川勉氏

 日本では年間10万人当たり約6人が腎細胞がんを発症するといわれており、発症率は徐々に上昇しています。発症率上昇は高齢化に伴うものもありますが、人間ドックなどの精度が向上し、小径がん(4センチ未満)の状態で発見されやすくなっていることも理由の一つになっています。

 診断は超音波検査やCT検査などの画像診断、また良性腫瘍か悪性腫瘍かを組織検査(腎腫瘍生検)で調べる場合もあります。治療法はさまざまですが、小径がんについては手術療法が第一選択となります。古くからは開腹手術が標準でしたが、現在は腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術が主流となっています。

 手術療法には腎摘除術と腎部分切除術があります。従来は腫瘍側の腎臓をすべて取る腎摘除術が標準でしたが、腫瘍部分が小さい場合、大部分は正常な働きを保つ腎臓であり、術後の腎機能低下が懸念されていました。腎機能温存の観点から行われてきたのが腎部分切除術です。腫瘍部分のみを切除し、正常部分を残すことができます。

 腎臓は「血管の塊」であり、これを部分切除しようとすると容易に出血してしまいます。これを防ぐため、腎部分切除術は手術中に腎臓の血流を一時的に遮断し、血流のない阻血状態にした上で腫瘍部分を切除します。切除後に止血処置を行い、腎臓の血流を再開させます。

 腎臓の血流遮断は手術中の出血量を抑えるなど安全な手術を行う上で必要な手段ですが、血流を遮断している阻血時間が長くなると、遮断中に正常腎組織が障害を受け、術後に不可逆的な腎機能の低下を来す可能性があります。

 短い阻血時間にするため、速く正確な手術が必要とされます。これまでは開腹手術または腹腔鏡下手術が行われてきましたが、表のごとく、長所短所が表裏一体でした。

 そこで登場したのが、ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術(RAPN)です。RAPNは、手術支援ロボットを用いることで、三次元の立体像を見ながら腫瘍と臓器の位置関係を正確に把握して手術することができます。また「人間の手」を超える多関節機能で、精密な操作を素早く行えるため、出血量減少や阻血時間の短縮につながります。当然、腹腔鏡下手術なので傷が小さく、術後の痛み軽減など患者さんの負担も軽くなります。RAPNは、開腹手術と腹腔鏡下手術の長所を合わせ持った術式といえます。

 RAPNは2016年より保険適応となり、わずか数年で全国の多くの病院で標準的術式として行われるようになりました。当院でも20年9月よりRAPNを開始し、安全に運用できています。今後も、地域の患者さんに高度な医療が提供できるよう努めてまいります。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 いしかわ・つとむ 福岡大学卒。岡山大学病院、岡山市民病院等を経て2019年より津山中央病院に勤務。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会泌尿器腹腔鏡技術認定医、泌尿器ロボット支援手術プロクター認定(ロボット手術指導医)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年01月16日 更新)

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