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(5)FDG―PET 岡山旭東病院放射線科部長PET・RIセンター長 奥村能啓

奥村能啓氏

 国立がんセンターの統計によると2019年に新たにがんと診断されたのは99・9万人、21年にがんで死亡された人は38・1万人である。日本人が一生のうちにがんと診断される確率(19年データ)は男性65・5%、女性51・2%と、がんは身近な疾患である。

 がんで死亡する確率(21年データ)は男性26・2%(約4人に1人)、女性17・7%(約6人に1人)であり、がんによる死亡者数は全体及び男性で肺がん、大腸がん、胃がんの順、女性で大腸がん、肺がん、膵(すい)がんの順に多い。

 09年から11年までにがんと診断された人の5年相対生存率は64・1%(男性62・0%、女性66・9%)である。がんと診断された場合、がんの原発病変、その病期を正確に診断し適切な治療を受けることが重要となる。

 PETは陽電子断層撮影(Positron Emission Tomography)の略で、ブドウ糖に類似した放射性薬剤のFDG(フルオロデオキシ・グルコース)を使用したFDG―PET(以後、PET)は糖代謝が亢進(こうしん)した悪性病変の検出にすぐれる。CTとの複合機PET/CTは糖代謝画像に解剖学的情報が加わり、診断の確実性がさらに増すとされる。

 PET/CTの利点は一度の検査で全身を把握し、形態画像のみで診断困難な際の診断、遠隔転移など予期せぬ病変発見に優れ、治療方針決定に影響を与える。図1は右乳がんに併発した卵巣がん、腹膜転移を1回のPET/CTで診断し、卵巣がん根治術、化学療法を先行させた。

 また、悪性病変の確定診断に不可欠な病理組織の生検部位、穿刺ルート決定にも有用である。

 PET/CTは悪性腫瘍の病期診断、再発診断(特に腫瘍マーカーが高値の際)、治療後の再病期診断、治療効果判定が良い適応である。治療効果判定は本邦では悪性リンパ腫のみが保険収載されている。疾患としては原発性肺がん、大腸がん、悪性リンパ腫、乳がん、消化器がん、頭頸部がんが多く検査されている。

 大腸がんの再発、転移病変が限局し完全に切除できれば、比較的良好な予後が期待できる。PET/CTは大腸がんの再発、転移診断に有用であり、予後改善に寄与しうる=図2

 図3では悪性リンパ腫治療後にFDG集積は消失し、治療効果良好と考えた。悪性リンパ腫治療終了時の残存腫瘍評価についてPET/CTは推奨されている。

 現在、多くの悪性腫瘍診療ガイドラインでPET/CT診断は推奨され、腫瘍診療には不可欠となっている。適切に利用され、診断、診療に寄与することが望まれる。

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 岡山旭東病院(086―276―3231)

 おくむら・よしひろ 産業医科大学卒業。福山市民病院放射線科統括科長、岡山大学病院放射線科講師などを経て2017年から現職。日本医学放射線学会専門医(診断)、日本核医学会専門医、PET核医学認定医、日本放射線学会指導医、日本核医学会指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年01月16日 更新)

タグ: がん岡山旭東病院

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