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(6)前立腺がんのサイバーナイフ治療 岡山旭東病院サイバーナイフセンター センター長 津野和幸、顧問 佐藤健吾

津野和幸氏

 日本人男性が罹患(りかん)するがんの中で最も多いのが前立腺がんです。10万人対で154・3人が羅患しており(国立がんセンター2019統計)、岡山県の男性人口が、89万8454人(22年3月1日時点)ですから、岡山県で年間約1386人が発症していることになります。発症年齢のピークは75~79歳で、人生100年時代といわれる今、ほとんどの男性が発症リスクを抱えていると言えます。

 前立腺がんの治療には、外科手術、薬物療法、放射線療法があります。岡山旭東病院では、22年12月より定位放射線治療装置のサイバーナイフを使った前立腺がん治療を開始しました。

 サイバーナイフは、高精度なロボットを使用した放射線治療機器で、ミリ単位以下で正確に動くロボットアームにより、多方向から患部のみにエネルギーを集約することで、周りの正常な部分への影響を抑えながら治療することができます。病変追尾システムが搭載されており、呼吸などのわずかな動きに対しても自動調整しながら、正確な治療をすることができます。

 サイバーナイフによる前立腺がん治療の特徴は、治療日数、治療時間の少ないことです。他の治療法では2カ月近くかかることもありますが、サイバーナイフは、がん細胞にピンポイントに放射線を照射するため、治療前の1泊2日入院と通院5日間での治療が一般的です。1回あたりの治療時間は20~30分が目安です(腸内ガス等の状況による)。

 サイバーナイフは、放射線を用いますが、痛みを感じることは少なく、麻酔をせずに治療ができるため、体への負担は少なく、高齢の方でも可能な治療となります。

 前立腺がんは一般的に悪性度の低いがんのため、分裂能は低いとされています。分裂能の高い悪性がんに対しての放射線治療は少量頻回の治療がいいとされていますが、分裂能の低いがんに対しては大量少数回数(寡分割)治療の方に効果があるとされています。

 強度変調放射線治療では、通常30~40回実施されますが、サイバーナイフ治療では、5回が標準プロトコールになります。

 サイバーナイフの前立腺がん治療は低、中リスクの患者さんが対象となります。前立腺がんが確定した後、前立腺内に数個の金属マーカーと前立腺と直腸の間にヒアルロン酸のスペーサーを挿入します。このスペーサーにより、直腸粘膜への被ばくは劇的に軽減され、有害事象の発生も減少しています。

 患者さんにとってメリットの多いサイバーナイフ治療ですが、病気の部位や大きさ、転移状況によって適応にならないケースもあります。サイバーナイフ治療を希望される場合、まずは、主治医の先生にご相談ください。定位放射線治療の適応が考慮される場合には、主治医の先生から当院へご相談いただくとスムーズです。

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 岡山旭東病院(086―276―3231)。連載は今回で終わりです。

 つの・かずゆき 岡山大学医学部卒。岡山大学病院、国立岩国病院(現、岩国医療センター)、岡山済生会総合病院、赤穂中央病院、三原興生病院を経て2006年岡山旭東病院赴任。脳神経外科ならびにサイバーナイフ治療に従事し、15年より現職。

 さとう・けんご 浜松医科大学医学部卒業。同大学関連施設、アメリカ留学を経て、1993年より岡山旭東病院に勤務、2000年よりサイバーナイフ治療に従事。05年より横浜サイバーナイフセンター、10年より日本赤十字社医療センター勤務を経て、21年より現職。日本脳神経外科学会専門医、がん治療認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年02月06日 更新)

タグ: がん岡山旭東病院

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