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理念継承 高度医療を提供 川崎医科大学付属病院(倉敷市松島) 永井敦病院長

永井敦病院長

川崎医科大学や付属病院など川崎学園の全景=上は1979年、下は2020年撮影(川崎学園提供)

手術支援ロボット・ダヴィンチによる手術(川崎学園提供)

 川崎医科大学付属病院(倉敷市松島)は今年開院50周年を迎える。1970年に開学した川崎医科大学を中心として、一大メディカルセンターを創設したいという川崎祐宣氏の強い思いで73年12月に開院した。今では1182床を数える西日本有数の大病院で、年間延べ約50万人の外来患者が訪れ、約20万人が入院するという。ただ、国内は超高齢、人口減少社会に突入し、2024年からは医師の「働き方改革」が始まるなど社会情勢は大きく変化している。永井敦病院長に、これからの病院運営について話を聞いた。



 ―今冬には病院開設50周年の節目を迎えます。半世紀を振り返りながら、今後の病院運営に向けた思いを聞かせてください。

 創設者の川崎祐宣先生は1938年に外科昭和医院、39年に外科川崎病院を岡山市に開院して以降、常に「患者第一主義」をもって診療と病院運営に当たってこられました。川崎医科大学付属病院の開院に際して先生が定めた「医療は患者のためにある」をはじめとする五つの病院理念は、当院の憲法です。大切に継承し、患者さんの幸福を第一に高度で良質な医療を提供し続けたいと思います。

 ―近年、医療を取り巻く状況は厳しさを増しています。超高齢社会に入り、新型コロナウイルス禍もあり、日本の医療は財政面でもシステム面でもほころびが見えるようになりました。

 大きな変革が求められる大変な時代です。コロナ禍では減収もありましたが、何より感染拡大に対する診療体制、管理体制の強化に追われました。

 2024年4月からは医師の「働き方改革」が始まります。残業時間の上限規制に対応するため、当院も救急科や麻酔・集中治療科などで議論している最中です。地域の医療機関でも人繰りに困るところは出てくるので、救急や夜間の診療体制などをサポートしたいと考えています。

 また、25年には団塊の世代が全員75歳以上になって、医療と介護の需要は一層増します。40年に入ると高齢者人口や年間死者数は最大となり、救急医療の需要は大きく高まるでしょう。

 地域医療を破たんさせることなく、いかに維持するのかは大きな課題です。厚生労働省は、かかりつけ医の位置づけの明確化など、各地域における医療機関の役割分担や連携を推進し、医療の効率化を図ろうとしています。当院としても、その役割を改めて問い直し、地域医療の強力な協力体制を組みたいと思っています。

 ―川崎医科大学付属病院に今、求められている役割とは何でしょう。

 当院は大学病院として、教育・研究機関であり、高度医療を提供する地域の中核的医療機関です。また、高度医療の提供などの面で厚労省から承認を受けた特定機能病院です。

 さらに、高度救命救急センターを擁する三次救急医療機関でもあります。2001年には全国に先駆けてドクターヘリの運行を始めるなど、とりわけ救急医療には力を入れてきました。今後の社会情勢も鑑み、こうした機能が十分発揮できるような環境整備が必要だと考えています。

 ―環境整備には、具体的には何が必要だと考えていますか。

 まずは地域の医療機関との連携と役割分担です。当院には2、3カ月に1回通院してこられ、5分程度の診療で薬を処方するという患者さんが多数おられます。そうした患者さんを地域のかかりつけの先生方などで受け入れてもらい、その5分間を削っていけば、ある科は1カ月に60時間くらい浮くことが分かっています。他の病院では治療が難しくなった重症患者さんの対応に時間を回せますし、三次救急で断らなくても済むような体制が整えられると思っています。

 実際、当院の地域連携室では、かかりつけ医が見つけられるよう、患者さんの相談に応じて開業医の先生方を紹介しています。

 ―高度医療に関する機能を強化するにはどうしていきますか。

 やる気のある優秀なスタッフを集めなければいけません。一般の病院ではなかなかできない、ガイドラインを塗り替えるような先進的な医療技術の開発研究などにも取り組んでもらいたいですね。

 大学病院のメリットは医師を卵から育てられることです。医師が切磋琢磨(せっさたくま)したり、手術支援ロボットなど先端的な技術を扱っているような科は活気があって学生に人気があります。そうした環境の中で、教授を目指せるような優秀な人材を育てたいと思います。

 だから臨床教育には特に力を入れています。医科大学だけでなく医療福祉大学や医療短期大学、リハビリテーション学院から毎年実習生を受け入れています。開院以来、医師はおよそ5千人、看護師は7300人、医療技術職は1万1500人を輩出しました。

 さらに、医科大学は本年度実施の入学試験から、総合診療科と救急科、麻酔・集中治療科の医師を目指す特定診療科専攻枠(定員4人)を設けました。少し先の話にはなりますが、この卒業生が毎年コンスタントに臨床現場に出てくるようになれば、人員はかなり充足してくるようになると思います。

 ながい・あつし 愛光高校(松山市)、岡山大学医学部卒業。同大学病院泌尿器科講師を経て、2006年に川崎医科大学泌尿器科教授、17年にオックスフォード大学ビジティングフェロー、21年4月から病院長。専門は泌尿器科学。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本性機能学会副理事長・性機能専門医、日本抗加齢医学会評議員など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年03月06日 更新)

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