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(2)体にやさしい前立腺がんの放射線治療 倉敷成人病センター放射線治療科主任部長 矢原勝哉

IMRTなど高度な治療が可能な放射線治療装置(リニアック)

矢原勝哉氏

 放射線治療は、手術・化学療法と並んでがん治療の3本柱の一つとされています。この半世紀で、さまざまながんに対する根治治療(治癒を目指す治療)において、手術に匹敵する治療成績が示されてきています。欧米では、放射線治療は日本より一般的で、多くの国でがんと診断された患者さんの半数以上が放射線治療を受けておられます。

 放射線治療の一番の特徴は、低侵襲で体にやさしいことです。前立腺がんは、放射線治療期間中、体に何の変化もなく治療を終了する方もいらっしゃいますし、多くの方は一時的な頻尿(おしっこの回数が増える)のみで治療が終わり、1カ月もたてばほとんどの方が元の状態に戻られます。手術と比べ、治療終了後に臓器の機能と形態が保てるため、生活の質を落とすことが少ない治療です。

 放射線単独治療(抗がん剤などの全身治療を同時に行わず放射線治療のみで行う治療)の場合、時間の都合さえつけば、仕事を続けながら外来で治療を行うことも可能な場合があります。

 当院で前立腺がんの治療を受けられる患者さんには、手術や強度変調放射線治療(IMRT)の他、密封小線源療法も選択可能となっています。

 IMRTは、CTやコンピューターを使い、腫瘍に放射線を集中させる治療技術です。放射線をどの方向からどの程度の線量で、どういった形で照射すれば最も効果的なのかをコンピューターを使って綿密に治療計画を立てます。腫瘍の形状に合わせて、そこだけくり抜くように放射線を照射するため、従来よりも高い線量の放射線を照射することが可能になりました。

 治療成績は大きく向上し、副作用は減りました。1回の照射時間は2分ほどで計39回行います。1日1回、週に5回外来に通っていただき8週間程度かかります。

 岡山県内では2施設目となる2021年4月から始めた密封小線源療法は、IMRTのように外部から放射線を当てるのではなく、前立腺の内部にごく小さな放射性物質を入れて、がん細胞を死滅させます。具体的には、低線量の線源(ヨウ素125)を密封したチタン製カプセル(シード線源=太さ1ミリ、長さ5ミリ)を50~100本前立腺内に挿入します。この線源が微弱な放射線を発し、がんを徐々に死滅させるのです。

 放射線が届く範囲はごく短いので、周辺臓器への影響は非常に低く抑えられます。治療には3泊4日程度の入院をしていただきます。カプセルは体内に残りますが、放射線量は約60日で半減、1年もすれば問題とならない量になります。

 密封小線源療法の治療成績は手術やIMRTと同等とされています。治療後の副作用についても日常生活の質を落とすようなものはほとんどありません。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 やはら・かつや 福岡県立福岡高校、産業医科大学医学部卒。同大学放射線治療科などを経て2021年より倉敷成人病センター勤務。日本医学放射線学会研修指導者、日本放射線腫瘍学会・日本医学放射線学会放射線治療専門医、日本ハイパーサーミア学会指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年03月06日 更新)

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