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(1)身近な「がん診療」  笠岡第一病院 外科部長小谷一敏 外科医長藤井研介

小谷一敏氏

藤井研介氏

 「近くで検査や治療を受けれるなら…」

 こういった言葉を、特に高齢の患者さんから聞きますと、地域で働く外科医は身の引き締まる思いです。

 「がん治療」には、手術・薬物療法・放射線治療や緩和治療などがありますが、高齢の方にとっては通院すること自体が負担となり、検査や治療が制限されることがあります。われわれ外科医は完治を目指した「がん治療」を最優先に標準的な治療を行いますが、加えてそれぞれの患者さんががんと付き合う上での最善の治療を共に考え、高齢の方にとっても選択できる身近な「がん診療」を心掛けています。

 <手術>

 がんによる死亡のトップ3である肺がん、大腸がん、胃がんは男女共通で健診を推奨されています。これらのがんは早期発見し手術をすることで完治が望める疾患でもあります。高齢の方であっても自立して日常生活ができている方であれば、多くの場合手術は可能ですので高齢であるという理由だけで手術をあきらめる必要はありません。

 手術術式も施設間で多少の差異はあるものの、胸腔鏡(きょうくうきょう)・腹腔鏡(ふくくうきょう)(ロボット手術含む)による手術が主流となっています。従来の開胸・開腹手術と比較すれば小さな傷となっており術後疼痛(とうつう)も軽減されていますので、早期離床・早期退院が可能となっています。

 また、手術後に補助療法として以下に述べる薬物療法を受ける方やがんが再発した方、がんが進行していて薬物療法を受ける方には必要に応じて中心静脈(太い静脈)カテーテルを皮下に埋め込む手術を局所麻酔下に行い、継続的な治療を目指します。

 <薬物療法>

 いわゆる抗がん剤ですが、飲み薬や点滴など、2~4週間おきに外来で行われることが多い通院での治療です。副作用に注意しながら、定期的な血液検査やCT/MRIなどの画像検査で効果を判定し、治療を続けたり変更したりします。

 こういった薬物療法も副作用の特徴や通院頻度も考えながら、高齢の方に適した治療を選択することができます。同じがんの種類でも、患者さん個人のがん遺伝子変異、つまりそれぞれのタイプを調べて、より効果の期待できる分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬を選択することも最近ではできるようになりました。

 <緩和治療>

 「緩和治療=治療法が全くない」というわけではありません。オピオイド(医療用麻薬)を使って痛みをとることはよく知られていますが、ほかにも不眠や便秘などのさまざまな症状を和らげる鎮痛補助薬を使用します。消化器や尿管の通過障害など、がんと付き合う上でみられる困った症状を回避したり緩和するために、手術を選択することもできます。

 大切なことは一人一人の患者さんが「何を大切に歩まれるか」です。食事が好きな方もいれば、不安が何より苦手な方もおられます。より深い理解と支援のために、これからも管理栄養士や臨床心理士など多職種からなるチーム医療で、地域のがん患者さんとご家族を支援します。

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 笠岡第一病院(0865-67-0211)

 こたに・かずとし 宮崎医科大学医学部卒業。2017年6月から笠岡第一病院外科部長。日本外科学会専門医、指導医。

 ふじい・けんすけ 大阪医科大学医学部卒業。2021年4月から笠岡第一病院外科医長。日本消化器外科学会専門医、指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年03月06日 更新)

タグ: がん笠岡第一病院

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