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国産初の手術支援ロボット「ヒノトリ」 岡山県内で初導入 岡山中央病院 金重総一郎院長、野田岳医師(ロボット手術センター長)に聞く

国産初の手術支援ロボット「ヒノトリ」で行われた前立腺がんに対する手術。右奥のサージョンコックピットでロボットを操作しているのが野田岳医師=9日、岡山中央病院

金重総一郎院長

野田岳医師

 岡山中央病院(岡山市北区伊島北町)は、国産初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」を導入した。岡山県内の医療機関では初めて。9日には前立腺がんの患者に1例目の手術を行った。手術支援ロボットは、先行機種である米国製「ダヴィンチ」の独占状態にある。その中でヒノトリを導入した理由や今後の展望について、金重総一郎院長とロボット手術センター長の野田岳医師(泌尿器科)に聞いた。

 ―手術支援ロボット導入の目的を教えてください。

 金重 現在の医療の趨勢(すうせい)は、患者さんへの負担をできるだけ少なくする低侵襲治療にあります。前立腺がんに対しては腹腔鏡(ふくくうきょう)手術やロボット手術、放射線治療などがありますが、中でもロボット手術は近年急速に普及しています。確実で安全な手術で合併症も少なく、根治が図れるからです。今回のヒノトリ導入によって、地域の患者さんに術後も安心して生活を送っていただけるような、高度で低侵襲な治療を届けたいと思っています。

 ―手術支援ロボットはダヴィンチが圧倒的なシェアを占めています。ヒノトリを選んだ理由は何でしょうか。

 金重 安全で確実な手術を行うという面で、両者の性能はほぼ同等だと思います。ただ、ダヴィンチは購入費や維持費が非常に高価です。その点、ヒノトリは、もちろん高価ではありますが、ダヴィンチほどではありません。

 製造元のメディカロイド(神戸市)には、国内企業ならではのきめ細かなサポートがあります。意思疎通が図りやすく、当院の要望も吸い上げてサービスに反映させてくれます。

 加えて、医薬品や医療機器の分野で年間4兆円を超える貿易赤字を出している日本の現状への憂いもあります。ヒノトリの導入で、国内の医療産業を少しでも応援できればとの思いはありました。

 ―9日には第1例の手術を行いました。

 野田 前立腺がんの70代の男性患者さんに前立腺全摘除術を行いました。手術時間は約4時間。無事終了しました。

 私は以前いた広島市民病院で、ダヴィンチによる手術に3年間携わりました。ヒノトリとダヴィンチで設計思想や操作法は異なりますが、精度など手術の結果に関わる部分に差はないと思います。むしろ、ヒノトリの方がカメラ映像の画質が優れ、アームはコンパクトで使いやすい設計になっています。また、執刀医が座ってロボットを操作するサージョンコックピットでは長時間の手術でも疲れにくいよう、ある程度、好みの姿勢がとれます。

 金重 疲労というのは、気付かないうちに少しずつたまっていきます。疲労の蓄積はミスにつながる可能性があり、術者が楽な姿勢をとれて疲れにくいというのは手術の安全確保に欠かせない条件でもあります。

 ―岡山中央病院にとってヒノトリ導入は、どのような効果をもたらしますか。

 金重 当院は1951年の開設以来、泌尿器科と産婦人科、透析部門を柱に地域医療を展開してきました。前立腺がんの治療も多数手掛けてきましたが、2012年に「放射線がん治療センター」をオープンして以降、当院での手術はいったん中断し、手術の方が適していると判断した患者さんは、ロボット手術のできる岡山大学病院や川崎医科大学総合医療センターなどに紹介していました。

 ヒノトリによる前立腺がんの手術を再開できることで、今後は当院において手術と放射線治療、薬物療法などを組み合わせた集学的治療が可能になります。地域の患者さんに、検診から緩和ケアも含めた総合的ながん治療を一貫して提供できる体制となりました。

 ―ヒノトリは、泌尿器科領域だけでなく婦人科、消化器外科の領域でも保険適用になっています。今後の予定は。

 野田 泌尿器科では5月までに前立腺全摘除術を20件ほど予定しています。前立腺以外にも、閉経後の女性に多い骨盤臓器脱の手術を夏までに実施するため準備を進めています。

 金重 子宮体がんなど婦人科領域においても、年内には手術が開始できればと思っています。

 かねしげ・そういちろう 川崎医科大学卒業。京都大学医学部付属病院、倉敷中央病院などを経て2013年から岡山中央病院放射線がん治療センター長、18年から院長。放射線治療専門医、麻酔科標榜医。

 のだ・がく 徳島大学医学部卒業。岡山大学病院、岩国医療センター、広島市立広島市民病院などを経て2022年から岡山中央病院泌尿器科医師。泌尿器科専門医、ダヴィンチコンソールドクター・サーティフィケート、日本ロボット外科学会Robo―Doc Pilot Japanese Class B。

国内31施設に納入 昨年末まで手術1100件超

 ヒノトリは、医療機器メーカーのメディカロイド(神戸市)が開発した。2020年8月に厚生労働省の製造販売承認を取得し、同12月から販売を始めた。

 メディカロイドによると、22年12月までに国内の大学病院など31施設に納入し、前立腺がんや胃がんなどで1100件を超える手術が行われた。中四国地方では広島大学病院、中国労災病院、鳥取大学医学部付属病院、徳島大学病院の4施設で稼働している。

 手術支援ロボットは、先行機種の米国製「ダヴィンチ」が大きなシェアを占める。製造元のインテュイティブ・サージカル社によると、国内ではこれまで約580台を販売した。

 ヒノトリを購入した31施設の多くがダヴィンチを使っていて2台目、3台目の導入だという。ヒノトリは1台数億円とされるダヴィンチよりも低価格で、国内の病院の大半を占める中小施設も導入を検討しやすいとされる。

 ヒノトリは、ロボットアームを動かして手術を行うオペレーションユニット、術者が座って操作するサージョンコックピット、手術中の映像を映し出すビジョンユニットで構成される。オペレーションユニットの4本のアームはスリムな設計で、八つの関節があって自由度が高い。サージョンコックピットは術者の体格や好みに合わせて姿勢を変えられる。

 ヒノトリを使った手術は泌尿器科(前立腺や腎臓がんなど)、消化器外科(食道や胃、大腸がんなど)、婦人科(子宮体がんなど)で保険適用になっている。メディカロイドは23年度に呼吸器外科領域での承認申請を予定しているという。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年03月20日 更新)

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