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(3)肺がんについて 倉敷成人病センター呼吸器外科主任部長 奥村典仁

奥村典仁氏

 ■現状

 現在、日本人の2人に1人は生涯に何らかの「がん」を経験するといわれています。医療の進歩により治るがんも多くなりましたが、それでも男性の4人に1人、女性の6人に1人は「がん」で亡くなっています。中でも肺がんは現在、世界的に増加傾向にあり日本のがん種別で死亡数第1位、罹患(りかん)数(発症人数)第2位です。

 ■症状は?

 肺がんによる症状には、咳(せき)、痰(たん)、血痰、胸の痛み、動いた時の息苦しさなどが挙げられます。しかし、これらの症状が出た状況では病状が進行していることも多く、肺がん手術を受ける患者さんの大多数は無症状です。最も多い症状は咳と痰なので、風邪でもないのに2週間以上長引く、あるいは血痰がある場合は医療機関を受診することをお勧めします。

 ■検診の勧め

 肺がんを早期のうちに発見できれば、適切な治療により根治できる可能性が高まります。そのため、症状に頼って検査するよりも検診を受診することが重要になります。

 実際、検診の胸部レントゲンや胸部CT検査により発見される肺がんは少なくありません。また、喫煙している人は痰の検査(喀痰(かくたん)検査)により扁平(へんぺい)上皮がんと呼ばれる肺がんの発見に役立ちます。

 ■治療

 肺がんの治療は(1)手術(2)薬物治療(3)放射線治療に大別されます。がんの進行度によりこれらの治療を組み合わせていきます。

 基本的には、大多数を占める非小細胞肺がんでは臨床病期I期・II期を手術適応、III期は症例によっては呼吸器内科・放射線治療科と協力して術前導入療法を施行後に手術の方針としています。

 手術症例の多数を占めるI期肺がんに対しては基本的には全例、完全胸腔鏡下(きょうくうきょうか)手術で傷の小さい、患者さんへの負担の少ない方法で手術を行います。術式は基本的にリンパ節廓清(かくせい)を伴う肺葉切除です。2022年大規模な臨床試験の結果が報告され、これによると末梢(肺の表面近く)の小型肺がんに対しては肺の機能の温存を目指した縮小手術(区域切除)を行っても生存率・再発率に差がないことがわかりました。当科ではこのような早期の肺がんに対しては積極的に縮小手術を完全胸腔鏡下に小さな傷で行い、患者さんの術後の生活の質を最大限に落とさないよう心がけています。そしてその多くが1週間以内で退院されています。

 ■肺がんにならないために

 肺がんにならないために、ご自身でできる唯一の方法は「禁煙」になります。喫煙により、男性で約5倍、女性で約4倍の肺がんのリスクがあります。5年間の禁煙で肺がんのリスクが下がるといわれています。

 肺がんといっても多様な病気ですので、気になる症状のある方はどうぞご遠慮なく受診ください。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 おくむら・のりひと 山口大学医学部卒業、京都大学大学院医学研究科終了。米国マサチューセッツ総合病院、西神戸医療センターなどを経て倉敷中央病院呼吸器外科主任部長。2022年8月から倉敷成人病センターに勤務。呼吸器外科専門医。日本呼吸器外科学会指導医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本外科学会専門医、日本胸部外科学会指導医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年03月20日 更新)

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