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(3)大腸がんのロボット手術 岡山済生会総合病院外科主任医長 大谷剛

大谷剛氏

 生涯でがんに罹患(りかん)する確率は2人に1人と言われており、その中で大腸がんは罹患数で第1位、男性の10人に1人、女性では12人に1人が生涯にかかるといわれています(国立がん研究センター2019年統計)。

 大腸がんは早期発見により高い確率で治癒が見込めるがんであり、早期発見のためには検診が重要となります。治療は早期であれば大腸カメラでの治療も可能なことがありますが、ある程度進行したものでは手術や抗がん剤、放射線などの治療法を選択する必要があります。手術は従来の開腹手術、内視鏡を使った腹腔鏡(ふくくうきょう)手術、手術操作を機械制御で行うロボット(ダビンチ)手術の3通りの方法があります。

 腹腔鏡手術もロボット手術も傷が小さく体への負担が軽く、術後の痛みも少ないのが利点ですが、腹腔鏡では直線的な手術器具を用いて行うため、手振れや動作制限がありました。ロボット手術では3Dのモニターで立体的に空間を認識でき、手振れ防止機構と人間の手よりよく曲がる多関節の鉗子(かんし)でより精密に、正確に手術を行うことが容易になりました。当院では19年にダビンチを導入し、直腸がんに対して積極的にロボット手術を行っています=写真

 直腸は骨盤の中で一番背側にあり、その腹側には膀胱(ぼうこう)や前立腺、子宮や膣(ちつ)があり、排尿や性機能、排便に関する神経に取り囲まれています。直腸がん手術ではがんを取り残しなくきれいにとり、なおかつ術後の後遺症を起こさないために周囲の臓器や神経は傷つけないようにする必要があります。

 狭く奥深い骨盤のなかでこれらの操作を行うには高度な技術を要しますが、ダビンチの手振れのない繊細な操作でより精度の高い手術が可能となり、がんの取り残しもなく、機能障害も減らすことができています。また、肛門近くの腫瘍でも人工肛門を回避し肛門を残す手術を行いやすくなりました。

 直腸は、1日に1、2回の排便で済むように便をためておく場所です。直腸手術の後はためることが苦手になり、排便回数が増えます。その他、便もれ、便やガスを我慢しにくいなどの症状が出現することもあります。これらは経時的にある程度改善しますが、術後の生活の質(QOL)を損ねる症状です。

 当院では術前からおしりを閉める肛門括約筋や骨盤を支える骨盤底筋のリハビリや栄養指導も取り入れ、それらの症状をできるだけ軽く、早期に回復できるようにサポートしています。

 高い根治性と機能温存の両立を目指して、チームでサポートし、日々診療にあたっています。お気軽にご相談ください。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 おおたに・つよし 香川大学医学部卒業。坂出市立病院、香川大学医学部附属病院、香川県済生会病院、高松赤十字病院を経て2019年より岡山済生会総合病院に勤務。日本外科学会専門医指導医、日本消化器外科専門医指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医、ロボット支援技術認定プロクター Robo―Doc Pilot認定国内B級。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年04月03日 更新)

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