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細胞がん化 一酸化窒素の関与解明 岡山大グループ 影響防ぐ薬も開発

上原孝教授

 体内で発生する一酸化窒素(NO)が細胞をがん化させるメカニズムを岡山大学術研究院医歯薬学域の上原孝教授(薬効解析学)らのグループが突き止めた。NOの影響を防ぐ薬も併せて開発し、マウスへの投与で腫瘍形成を抑止する効果を確認。新たな治療法の確立につながる成果という。

 NOは血圧調整や記憶形成、殺菌といった重要な役割を担う一方、老化で発生量が異常に増えるとアルツハイマー病をはじめとした神経変性疾患を招くなど、人体に悪影響を及ぼすことが分かっている。グループはその働きを解明するため、メチル基と呼ばれる分子がDNAと結び付いて細胞を正常に維持する現象「メチル化」に着目。ヒトやマウスの細胞を多量のNOにさらして影響を調べた。

 まずシャーレのヒト細胞に高濃度のNOを投与すると、メチル化を促す酵素の働きが半減。PCR検査で大腸、胃、肺がんなどの原因遺伝子が増えていることが分かり、細胞のがん化が確認された。

 続いてNOの発生を誘発するゼラチンと、がんの基になる細胞をマウス12匹に注入し、体内で同じ状況を再現。NOと酵素の結合を防ぐために開発した薬を投与したところ、細胞ががん化して腫瘍ができたのは3匹にとどまった。

 実験を通じてNOが酵素との結合・解離を繰り返していることも判明。グループは「酵素が多量のNOにさらされると結び付く量や時間が相対的に増え、メチル化が妨げられる。その結果、細胞本来の制御機能が損なわれて発がんにつながる」と結論付けた。

 実際、米国で入手した大腸がん患者の摘出臓器を解析したところ、患部の酵素に多くのNOが結合していたという。

 研究成果は英科学誌ネイチャーコミュニケーションズに掲載された。上原教授は「NOの影響をゲノムレベルで解明できた意義は大きい。体内での異常な増加によって誘発される他の疾患も含め、ヒトに投与できる有効な治療薬の開発を目指したい」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2023年05月21日 更新)

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