文字 

(5)褥瘡 岡山済生会総合病院皮膚科医長 吉富惠美

 高齢化社会となる一方、医療政策の転換により高齢者の方が在宅や施設で介護を受けながら過ごすことが多くなってきました。介護生活のなかで、褥瘡(じょくそう)に悩む方も多いのではないでしょうか。

 褥瘡は「床ずれ」とも呼ばれ、寝具や車いすなどと接触する部分の皮膚が圧迫されることにより皮膚やその下の組織が死んでしまった状態です。最大の原因は、同じ部位に継続的な圧迫が加わることです。

 図1に褥瘡ができやすい場所を示します。しかし、これだけではなく、座っていても自分で姿勢が保持できずに体がずり落ちてしまいその摩擦や皮膚のずれによって褥瘡ができることもあります。また、汗や尿・便などで皮膚が湿っていてふやけている、逆に皮膚が乾燥しすぎて刺激に弱くなっている、栄養状態が悪い、持病がある、持病が急に悪化した、痩せていて骨が飛び出ている、介護力が不足していることなどいろいろなことが要因になります。

 褥瘡はできてしまうと状態によってはどんどん悪化し、ご本人・介護する方ともに負担が増えてしまいます。ですから褥瘡ができないようにケアをしていくことが大事になってきます。

 まず、1カ所に圧迫がかかりすぎないように体の向きや姿勢を定期的に変えてあげることが重要です。横を向けて寝かせるときは真横ではなく、体の広い面積で体を支えられるように30度ほど体を傾ける(横を向ける)のがよいとされています。この時クッションなどを利用すると安定します。体圧分散寝具なども上手に利用するとよいでしょう。

 図2にあるように、ベット上で頭を起こしてあげる時も30度以下になるようにするとお尻の広い面積で体を支えることができます。車いすや椅子に長時間座る場合も図2のように関節がそれぞれ90度になるように座りましょう。しかしその姿勢を保持するのはなかなか大変です。その時も姿勢を保持したり圧がかからないようなクッションを利用するとよいです。

 以前はよく円座を使用していましたが、円座に接触する皮膚に圧迫がかかり、褥瘡を悪化させたり、円座が当たる場所に新たな褥瘡を作ってしまうことがありますので、円座の使用は避けましょう。

 スキンケアもとても大事です。便や尿などの排泄(はいせつ)物は刺激が強いので長時間付いたままにしないようにしましょう。皮膚に摩擦を繰り返すと皮膚が弱くなってしまうので、拭き取るときも優しく押さえるように拭きましょう。可能なら入浴し、弱酸性の洗浄剤を泡立てて優しく洗いましょう。入浴は皮膚を清潔にするだけでなく血行促進の効果もあります。

 入浴できない時もスキンケアの一環として1日1~2回はお尻を洗浄してあげましょう。皮膚がふやけないように水分吸収性のよい通気性のよいおむつを使用し、尿や便の付着で皮膚のふやけが強い場合は、お尻に撥水(はっすい)性のクリームやオイルを塗ってあげると状態が改善します。また逆に皮膚が乾燥しているときは保湿剤を使用するとよいでしょう。

 褥瘡の治療はその個々の状態で異なりますので、かかりつけの先生や看護師さんの指示に従って治療してください。

 病院では医師・看護師・理学療法士・薬剤師・栄養士とさまざまな職種がチームを組んで褥瘡の予防・治療にあたります。在宅でも、介護される方一人で抱え込まずに、さまざまなサービスや制度を利用し、かかりつけ医・看護師・ホームヘルパー・ケアマネジャーなどと協力して褥瘡の予防・治療をすることが一番重要だと思います。

 =おわり=
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年03月04日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ