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(24)口内炎とビタミンC 朝日高等歯科衛生専門学校校長 渡邊達夫

 口内炎が出来て困ると言う人に会う。唇や頬、舌が酸っぱいものにしみたりして、当たると痛い。鏡で見ると白っぽい色をしたチョットくぼんだ丸い傷があって、その周囲は赤くなっていることが多い。アフタ性口内炎である。一般的には、ほっておいても1週間ぐらいで自然に治るが、再発することが多い。歯医者に行くと塗り薬をくれたり、貼り薬をくれたりする。また、患部を焼いたり、ビタミン剤を飲むこともある。このような治療法は、いずれも偉い先生が教えてくれた治療法で、データを探してもなかなか見つからない。

 岡山大学大学院の学生だった小椋先生は、口内炎が再発する患者さんに協力してもらって、1週間の食事の調査をした。さまざまな方法で分析してみると、口内炎が出来やすい人の食事は、一般の人と比べてカルシウムとビタミンCが不足しがちであることが分かった。次の研究は、出来やすい人にカルシウムとビタミンCの多く含まれた食品を摂(と)ってもらい、口内炎が出来にくくなることを示すことになる。それが出来れば因果関係がはっきり言えるのだが、小椋先生にはその時間がなかった。私はアフタ性口内炎が出来る人には、ビタミンCのサプリメント(栄養補助食品)を勧めている。その結果、口内炎が出来なくなったと言う人や、風邪をひかなくなったと言う人が出てきた。

 ある時、イヌを使ってビタミンC入りの歯磨き剤の効果を調べてみた。普通のイヌにも軽い歯肉炎はあるが、歯グキの上から塗るだけで炎症は治まり、歯グキの細胞が増えていることが分かった。この二つの研究から、ビタミンCは炎症を抑える作用があるかもしれないと考えだした。

 ビタミンCはヒトやサルの一部、モルモット以外の動物では身体の中で合成される。だからビタミンC不足にならない。人間は毎日摂らないとビタミンC欠乏になってしまう。ビタミンC欠乏で有名なのは壊血病だ。ヴァスコ・ダ・ガマは1497年7月、リスボンを出発して喜望峰を回り、インドへ向かっていた。半年ぐらいした頃、乗組員に壊血病が発症し、死者が出始めた。約1年の航海で、170人の乗組員のうち100人が壊血病で死んだと言う。それから300年近く過ぎて、キャプテン・クックが新鮮な野菜や果物を積み込んで壊血病を出さずに長期間の世界周航を成功させたのが1771年である。

 40年ほど前、ノーベル賞を受賞したポーリング博士が風邪の予防にビタミンCの大量療法がよいと提唱していた。最近、予防にはあまり効かないが重症化を食い止めることが出来ると言う疫学研究が発表された。

 ビタミンCの効果としてまず第一に挙げられるのが美肌効果である。紫外線に当たった時作られるメラニンを抑える作用と肌の加齢防止作用である。

 また、ビタミンCは活性酸素の働きを抑える。活性酸素は身体のさびのようにたとえられていて、老化や生活習慣病、細胞のがん化、炎症などとの関係が言われている=図参照。がん治療にもビタミンCの大量療法が注目を集め出した。抗がん作用のあるインターフェロンはもともと体内で作られるものだが、ビタミンCがインターフェロンの出来るのを助けている。また、喫煙はビタミンCを壊してしまうので、たばこを吸う人は一般の人の3倍くらいのビタミンCが必要だと言う。

 ビタミンCは水に溶けるもので、腸から吸収される量も上限があり、摂りすぎた害はあまりない。空腹時に摂りすぎると便が軟らかくなって下痢したり(1回、1グラム)、ごくまれだが悪心、嘔吐(おうと)を起こす(2グラム)こともある。一時期、ビタミンCを摂ると結石が出来ると言われたが、今では否定され、逆に膀胱(ぼうこう)結石が少なかったという報告もある。食後、栄養補助食品として摂るのは問題がないので、たばこを吸っている人、アフタ性口内炎が出来やすい人、風邪をひきやすい人などはビタミンCのサプリメントを試してみてほしい。

=おわり=
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年03月04日 更新)

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