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(4)インスリン治療について 心臓病センター榊原病院 糖尿病内科部長 清水一紀

しみず・いっき 山口県立徳山高、金沢医科大卒。卒業後岡山大第2内科に入局し、同大で医学博士号修得。愛媛県立中央病院糖尿病内科部長、同県立今治病院副院長を経て2011年から現職。日本糖尿病学会評議員、指導医、専門医。日本糖尿病・妊娠学会理事。第12回先進糖尿病研究会会長。

今年のアメリカ糖尿病学会で発表されたリアルタイムCGMモニターシステム

 インスリンと聞くだけで嫌だと感じる人も多いと思いますが、インスリンがこの世に無い時代にどれだけの命が失われていったかご存じでしょうか。

 インスリンはBantingとBestらが1921年に発見、1922年1月11日、Leonard Thompsonにはじめて薬として使用され、その後多くの命を救ってきました。最初はウシやブタから抽出されたインスリンが使われていましたが、1980年代からはヒトインスリンが作られるようになりました。もともと体内では、膵臓(すいぞう)ランゲルハンス島のβ細胞から直接血液中に分泌されますが、ヒトインスリン(速効型)注射は皮下脂肪に注射します。ヒトインスリンは皮下から血液に吸収されるまで約30分かかりますので、食事の30分前に打つ必要があります。そこで皮下からの吸収を早くして食事の直前に打てるように改良されたのが超速効型インスリンです。

 インスリンは目的に応じて2種類のインスリンに分かれます。前述の速効型、超速効型は、食事からの栄養を体内に取り込むために必要なインスリンで「追加インスリン」といい、各食事前(通常1日3回)に打ちます。一方、空腹時血糖を調整するのは長時間効果のあるインスリンが使用され、「基礎インスリン」といい、通常1日1回打ちます。1936年にHagedornが中間型インスリンを作製、その後遺伝子技術により持効型インスリンが開発されました。基礎インスリンは、糖しか栄養として利用できない脳に安定して栄養を供給するために大事な役割を果たしています。

 人類の歴史を振り返ると、ヒトは生きるために飢えと戦ってきました。つまり食べること=生きること、でした。そのため今われわれの体には、多くの血糖を上げるインスリン拮抗ホルモン(アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモンなど)が存在します。一方血糖を下げるホルモンはインスリンただ一つだけです。現代のような平和で飽食の時代、インスリンの負担は急激に増加しています。平和な世の中でもストレスがあるとインスリン拮抗ホルモンは分泌されます。さらに脂肪食、間食、ジュースなど、血糖を上げるものが体に飛び込んでいます。多くの日本人は、インスリン分泌力が弱いので、肥満になるとインスリン欠乏になり高血糖、つまりインスリン分泌低下に陥ります。そのためインスリン不足の糖尿病が増えているのです。

 インスリンが足らない高血糖にはインスリンを補うことが原則です。そのためインスリン注射を行いますが、また血糖が改善すればインスリン分泌は改善しインスリン注射が不必要になります。そのためインスリン治療は早期発見早期治療、そして早期のインスリン離脱が最も良い治療といえます。

 通常のインスリン注射はいったん体内に注射するとその後の効果は変更できません。そこでインスリン治療が難しい方にはインスリンポンプ治療(CSII)を行っています。これはコンピューターでプログラミングし、インスリンの必要な時間に多くのインスリンを、低血糖が起こりやすい時間にはインスリン量を減らすことができるよう、計算してインスリンを調整できるようにした治療法です。またこの調整を確認するための持続血糖モニタリング装置(CGM)もあり、このような技術を使うことにより、いままで難しかった糖尿病の血糖コントロールが劇的に改善することもあります。近い将来、CGMを使って測定した血糖値が、ポンプ装置で見ることができるようになります(リアルタイムCGM)=写真参照。さらにCGMを使ってインスリン量の自動調節装置も開発中されています。当院ではCSIIやCGMを積極的に行い、多くの経験を積んでいます。

 現在インスリンは専用のデバイス(装置)で皮下に注射する方法しかありません。鼻粘膜や肺から吸入する方法、皮膚から吸収する方法なども試されましたが、今のところ実用化される見通しの立っているものはありません。しかしインスリンが薬として開発されて100年になる2022年までには、もっと簡便なインスリン治療が誕生しているかもしれません。

 =おわり=
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年09月16日 更新)

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