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大腸がん ステージ4の現状と検診のススメ― 自覚症状や痛みない場合も 川崎医大消化器外科学講師、大腸外科主任 鶴田淳

つるた・あつし 大阪星光学院高、京都府立医科大卒、同大学院医学研究科修了。米国国立がん研究所、英国ビートソンがん研究所留学。公立湖北総合病院外科、倉敷中央病院外科部長を経て2013年4月から現職。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医。

 大腸がんの発生率はこの30年間で6倍に増えています。がんの種類別にみた罹患(りかん)率をみると、大腸がんは他のがん種に比べて特に増加率が大きいのです。罹患率というのは一定期間に新たに発生した疾病の症例数の人口に対する割合をいいます。統計学的な数字ではピンとこないかもしれませんが、明らかに昔に比べて大腸がんは珍しい病気ではない印象です。

 皆さまの周りの友人やご家族に大腸がんを患った方がいらっしゃるかもしれませんし、もしかしたらあなたご自身がこの病気にかかった経験をお持ちかもしれません。大腸がんの手術の際に時々造設する人工肛門(またはストーマ)という名称も今では決して耳新しくないのではないかと思います。オストメイト(ストーマを造設されている方)対応の多目的トイレもよく見かけるようになりました。大腸がんは決して他人事ではないのです。

ステージ4と3の生存率には大きな差

 一般に大腸がんの進行度は「ステージ」として表され、進行するに従ってステージ0から4までの5段階に分類されます。中でも既に肝臓、肺などの他の臓器へがんが転移してしまっている状態のステージ4は予後(医学的な見通し)が良くありません。ステージ1から3までに比べるとステージ4大腸がんの5年生存率はとても低いのです。

 私がこれまで勤務していた病院では年間50人ほどのステージ4大腸がんの方が初診でいらっしゃいました。換算すると週に1人の割合ですが、これは現在の施設でも同様で、実に驚くべき数字です。概算しますと岡山県内では年間およそ200人程度の方が初診時にステージ4で見つかっている計算になります。詳しく調べると、ステージ4のおよそ8割の方には何らかの症状を認めていましたが、残り2割の方には自覚症状はなく、たまたま検診や他の検査で見つかっていました。特筆すべきは有症状の7割は「痛み」としての症状ではなかったことです。「進行したがんは痛い」と思っていらっしゃる方もおられますが、それは必ずしも正しくないようです。

 症状はさまざまで、いくつかの種類に分類できます。腹部症状として腹痛、腹部膨満感、心窩部(しんかぶ)(みぞおち)不快感、腹部腫瘤(しゅりゅう)。排便異常として排便困難、便秘、軟便、頻便、残便感。全身症状として食欲低下、全身倦怠(けんたい)感、嘔気嘔吐(おうきおうと)、体重減少。胸部症状として咳嗽(がいそう)、血痰(けったん)。局所症状として背部痛、会陰部痛などです。個人差があるため一概には言えませんが、これらの症状が長く続いたり、悪化してくる場合は注意が必要です。

 またステージ4の3分の2の患者さんにはもともと何らかの基礎疾患があり、定期的に近くの医療機関にかかって投薬されていたことも判明しました。内訳は高血圧、糖尿病、心血管疾患、脳血管疾患、高脂血症、呼吸器疾患、腎疾患、精神疾患、整形外科疾患など。つまり日頃、医療と無縁の生活をしているわけではなかったのです。

 ステージ4の中には抗がん剤や手術によって予後の改善を期待できる場合もある一方で、治療の選択肢がかなり限られたものにならざるを得ない場合もあります。そういったときにいつも思うのは、「もしこの患者さんと数カ月でも早く出会っていたら」ということです。そうすれば、もしかしたらステージ4でも何らかの治療が可能であったかもしれませんし、あるいはその前段階のステージ3であったかもしれません。ステージ4と3の生存率には大きな差があり、3カ月でも早く診ることができれば、その後の命の長さが大きく変わる可能性もあるのです。

かかりつけ医へ積極的に検診依頼を

 大腸がん検診はこうした進行がんの少しでも早い段階での発見に大きく寄与すると考えます。1次検診は検便で便の中の微量な血液を検出します。1次検診で精密検査が必要とされる方はおよそ6%です。2次検診は大腸内視鏡検査を受けることになりますが、その結果大腸がんが発見される割合は検診全体を通して0・16%です。1次検診受診者1万人に対して16人大腸がん罹患者が見つかる計算です。

 平成22年国民生活基礎調査における40歳以上の方の大腸がん検診受診率は、男性27・4%、女性22・6%でした。平成19年に国が策定した「がん対策推進基本計画」では5年以内にがん検診受診率を50%以上とすることを個別目標として取り組むことが決められましたが、現実的にはこの数字には到底及ばない状況です。

 NPO法人ブレイブサークルという団体は、行政や医療関係者と情報交換を行い、大腸がん検診・精密検査の啓発手段の開発に取り組んでいます。大腸がん検診受診率対策として科学的に推奨される方法で最も効果的なものは、かかりつけ医から検診を勧められることと言われます。しかし一般市民の皆さま方からかかりつけ医へ積極的に大腸がん検診を依頼されることは、もっと大切なことかもしれません。

 もしあなたが少しでも気になることがありましたら、気軽にかかりつけ医の先生にご相談なさってください。あるいは川崎医科大学消化器センター(電話086―462―1111=代表)までご連絡くだされば、迅速に対応致します。たとえどんな局面であっても共に取り組んでいきましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年11月18日 更新)

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