文字 

「献体」希望者増える 県内2団体で4200人

献体の申し込み完了はがきを手にする名越さん

 医師や歯科医師の育成へ自らの遺体を無報酬、無条件で解剖実習に提供する「献体」の希望者が増えている。県内には「ともしび会(岡山大)」「くすのき会(川崎医科大)」の二つの篤志家団体があり、現在の申し込みは高齢者を中心に計約4200人。「最期の社会貢献」として知られるようになったほか、価値観の多様化などが背景にあるとみられている。

 新見市哲西町大竹の名越志郎さん(66)は昨年5月、ともしび会に献体を申し込んだ。3度の脳梗塞に肺気腫、直腸がん…。20年ほど前から大病を何度も患い、そのたびに医師に助けられた。「私の体が医者の卵の役に立つのなら。あの世に行ってからのお礼としたい」と思っている。

 ともしび会は1967年に創設された。当時は献体が不足していたが、83年に「医学および歯学教育のための献体に関する法律」が成立したこともあり、次第に増加。現在の申し込みは約2700人と、10年前に比べ500人近く増えた。

 岡山大では医、歯学部生が3年次に解剖実習を経験する。年間100体前後の献体があるといい、同大医学部の大塚愛二教授(人体構成学)は「解剖実習は人体の構造を知るための大切な学問」と意義を強調する。

 74年から献体の受け付けを始めたのがくすのき会。登録者は年間100人ほど増え続けており、現時点で約1500人。献体は同40体前後に上るという。

 「かつては死後の解剖に対して不安を持つ人も多かったが、時代の流れとともに変化してきているようだ」と川崎医科大の樋田一徳教授(解剖学)。「教育のためにささげてくれた尊い献体に触れることで、解剖実習後には患者への向き合い方をはじめ、学生たちの意識が大きく変わってくる」とする。

 両団体によると、献体を申し込むのは主に60歳以上。死亡すると大学が遺体を引き取り、解剖実習まで保存する。1〜2年後の実習終了後に火葬し、遺骨を遺族などに引き渡すという。

 献体の希望者は全国的に増加しており、篤志解剖全国連合会(東京)の事務局長で明海大歯学部の天野修教授(同)は「臓器提供をしたくてもできなかったり、中高年になって死について考える時、献体を一つの選択肢とする人が増えているのかもしれない」と話している。

 献体 医学、歯学の解剖学教育や研究に役立てたいと自分の死後に体を提供すること。手続きは生前、医学部や歯学部がある大学や献体団体に申し込み、申込書に氏名、住所、家族構成などを記入する。死後に遺族の了解が得られないケースもあり、親族がいる場合は同意書が原則必要。登録すると献体登録証が交付される。登録者が死亡した際、登録した大学が遺体を引き取る前に葬儀をすることもできる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月30日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ