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(12)腎臓の病気 治療の進歩で完治も望める 川崎医科大腎臓・高血圧内科学 柏原直樹主任教授

かしはら・なおき 玉野高、岡山大医学部卒。米・ノースウエスタン大留学を経て、1990年から岡山大に勤務し、助教授などを務める。98年、川崎医科大主任教授に就任。2004年から臨床教育研修センター長、09年から副学長を併任。日本腎臓学会理事、日本心血管内分泌代謝学会理事、日本高血圧学会監事、日本内科学会評議員など務める。57歳。

 ―腎臓の病気にはどんなものがありますか。

 柏原 非常に多くの病名がありますが、症状の組み合わせから、慢性糸球体腎炎、急性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、急速進行性糸球体腎炎、全く自覚症状がない無症候性血尿・タンパク尿と、大きく五つのグループに分かれます。

 ―それぞれの症状は。

 柏原 腎炎と名の付く症候群は血尿やタンパク尿が特徴です。慢性糸球体腎炎は自覚症状がなく、放置しておくと気付かないうちに、腎機能が低下していることがあります。急性糸球体腎炎は小児に多く、短期間のうちにのどの炎症や発熱、足の腫れ、尿量の減少が起きますが、適切に対応すれば大半は完全に治ります。ネフローゼ症候群は大量のタンパク尿が出て血液中のタンパク質が減少し、体がむくみます。急速進行性糸球体腎炎は高齢者に多く、治療しなければ数カ月のうちに腎不全に陥ることがあります。

 ―多くの種類がありますが、主な原因は。

 柏原 慢性糸球体腎炎の代表的な疾患であるIgA腎症は、扁桃腺(へんとうせん)で作られたIgAという抗体が腎臓の糸球体にたまることで発症します。腎臓が肥大する多発性嚢胞(のうほう)腎は遺伝が関係します。ネフローゼ症候群は何らかの免疫異常によって発症します。

 ―慢性糸球体腎炎のように自覚症状がない場合、どうやって病気を発見しますか。

 柏原 学校や職場の尿検査で異常が見つかったのをきっかけに受診し、罹(り)患が分かるケースがほとんどです。血尿やタンパク尿などの検尿異常を指摘された場合は、ぜひ医療機関を受診してください。

 ―腎臓の働きを調べる方法として、クレアチニン検査という方法がありますね。

 柏原 クレアチニンとは、筋肉に含まれるクレアチンというアミノ酸の一種が代謝してできる老廃物の一種です。健康ならば、腎臓の糸球体でろ過され尿中に排せつされますが、腎機能が障害されると、血液中に残ります。クレアチニンの値が1を超えると、腎機能は多くの場合、既に50%以下に低下しています。ただこの値は一気に上昇するわけではないので、定期的に検診をし、変動に注意することが必要です。

 ―高血圧や糖尿病が引き起こす腎臓疾患もあると聞きます。

 柏原 糖尿病性腎症は、国内で透析導入となる1位の原因疾患です。網膜症を合併することがほとんどです。腎硬化症は動脈硬化が原因となります。腎臓病になると塩分の排せつが障害され、高血圧になりやすいことが分かっています。また高血圧によって腎臓病の進行も早くなります。

 ―近年、治療が進歩しているそうですね。

 柏原 糖尿病性腎症は適切な生活習慣と糖尿病治療を行えば、進行を抑えられます。適切に治療すれば治るケースが増えており、IgA腎症は完治する例が増えてきました。急性腎炎は食事療法に加え、浮腫が強い場合は利尿薬などを用います。ネフローゼのうち、若い人に多い微小変化型というタイプは、再発を繰り返すこともありますが、ステロイドを中心とした治療により最終的には治ります。急速進行性糸球体腎炎症候群はステロイドや免疫抑制薬が良く効きます。免疫抑制薬は新しいものが開発されており、治療の選択肢が増えています。これまで治療薬がなかった多発性嚢胞腎も昨年、嚢胞の増大を防ぐ薬剤が初めて認可され、効果が期待されます。

 ―最近は慢性腎臓病という言葉をよく聞きます。

 柏原 大ざっぱに言って、タンパク尿が出ているか、腎機能が衰えた状態が3カ月以上続けば、慢性腎臓病と呼び、日本国民の10%以上が該当します。米国の疫学調査で、一定以上のタンパク尿が出たり、腎機能が低下した人は、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まることが分かり、警鐘を鳴らす目的で、新たに定義されました。

 ―透析患者が増えていますね。

 柏原 全国で透析患者は32万人。20年前は15万人、30年前は6万人ほどしかいませんでした。糖尿病性腎症が最も多くおよそ4割、慢性糸球体腎炎が2割、腎硬化症が1割強を占めるように、生活習慣病にかかわる原因が増えています。

 ―予防を図る上で注意すべき点は。

 柏原 生活習慣の適正化、つまり適度な運動と食事の管理が重要です。日本人の塩分の1日平均摂取量は11グラムですが、6グラム未満に抑えるのが理想です。高血圧、肥満はもちろん、意外に聞こえるかもしれませんが、喫煙も発症リスクを高めます。ただ、「治らない病気」というイメージは捨ててください。肝心なのは早期発見、早期治療です。

     ◇

 川崎医科大学病院(倉敷市松島577、(電)086―462―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年01月19日 更新)

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