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骨粗鬆症の話(2)背骨の骨折 倉敷中央病院副院長・整形外科主任部長 松下睦

松下睦副院長

図1

図2

骨粗鬆症の話(2)背骨の骨折

 骨粗鬆(そしょう)症とは骨が弱くなって簡単に骨折しやすくなる病気であることは前回に説明しましたが、中でも一番骨折しやすいのが背骨です。“脊椎圧迫骨折”が女性では65歳くらいから始まり、年齢とともに急速に増加します。

【骨折の原因】

 圧迫骨折は75歳くらいまでの比較的若い世代では転んで尻もちをついて起こることが多いのですが、それ以上の年齢層では骨粗鬆症が進行して骨が弱くなるために、転ばなくても骨折をすることが増えます(非転倒骨折)。

 植木鉢、灯油缶などの重い物を持って急に腰や背中が痛くなったら、高齢者ではまず骨折です。さらにまったく心当たりもなく急に痛くなり、実は骨折であったという原因の無い圧迫骨折が約半数に達します。転ばないように注意するだけでは、背骨の骨折は防ぎきれません。

【骨折の症状】 

 骨折ですので痛いのが当たり前ですが、背骨が折れると起き上がり、寝返りなど姿勢を変える時にすごく痛いのが特徴です。逆に、立つと意外に楽に歩けたりします。強い力で折れる若い人の背骨の骨折と違い、骨粗鬆症の人は弱い力で折れるので、骨の破片が神経に当たり足が麻痺(まひ)することはありません。ただ、骨がうまく固まらないと骨がずれて神経に当たり、足の力が弱くなってくることがあります。

 中にはほとんど痛みを感じず、非常にゆっくり背骨がつぶれて変形するような骨折もあり、そんな場合はいつの間にか背中が丸くなって身長が低くなっています。骨折がたくさん起こると姿勢が悪くなり、慢性の腰痛に悩まされ(図1参照)、お腹が圧迫されて呼吸がしにくい、食事が入りにくい等の内臓の障害が出て、寿命が短くなることまで分かっています。

【骨折の診断】 

 骨折はレントゲン検査で診断するのが基本ですが、背骨の骨折のうち3割はレントゲンでは分かりにくく、骨折は無いと診断されてしまうことがあります。MRI検査では図1のように骨折が正確に診断できますが、すぐにこの検査をすることは困難です。レントゲンで骨折が無いといわれてから2週間くらいしてもまだ痛いときは、もう一度レントゲン検査を受けましょう。その間に骨が少し変形してレントゲンで骨折が見えるようになっています。

【骨折の治療】 

 手足の骨折と違い、背骨では手術をしない治療が原則です。安静、コルセット、しばらくしてリハビリを行います。自宅でも治療が可能ですが、痛みのために動けなくなり食事もとれないような場合は、入院治療が必要になります。順調にいけば2週間くらいから痛みが軽くなり、1カ月半程度で痛みなく起き上がれるようになります。3カ月しても強い痛みが続く場合は骨折の治癒が遅いと判断し、薬の変更や追加、場合によっては手術(図2参照)が必要です。

【骨折が治ったら】 

 骨粗鬆症では背骨の骨折がきっかけとなって、骨折の連鎖反応が始まります(図1)。そこで、背骨の骨折が治った後は必ず次の骨折を予防するための薬を始め、継続することが必要です。薬で骨折連鎖を断ち切り、いつまでもまっすぐな背骨を目指しましょう。



倉敷中央病院((電)086―422―0210)

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 <図1> “ぎっくり腰を繰り返して”いた78歳女性の背骨のMRI画像です。実際は圧迫骨折の連鎖で、ここに見えている範囲だけでも7個の骨折が確認できます(☆印)。上から2つ目の☆印の骨は変形はありませんが黒い波打つ筋が見えて、これがMRIでしか見えない骨折線です。他の骨は古い骨折の後つぶれて固まったものです。多数の骨折のため背中が丸くなり、痛みやだるさが続いています。

 <図2> 最も軽い圧迫骨折の手術は椎体形成術です。骨折から3カ月経っても激しい痛みで伝い歩きがやっとの78歳男性です。AとBは手術前のCTです。骨折の隙間が見えます(矢印)。手術は背中から針を刺して骨セメントという骨の接着剤を注入します。CとDの白い物がセメントです(☆印)。15分くらいで固まり、痛みが取れます。畑仕事が出来るまでに回復しました。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年04月20日 更新)

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