文字 

骨粗鬆症の話(3)骨脆弱性骨折 倉敷中央病院・整形外科部長 松本泰一

 まつもと・たいいち 兵庫県・六甲学院高、愛媛大医学部卒。京都大病院、倉敷中央病院、大手前整肢学園、公立豊岡病院、京都大整形外科を経て2005年より倉敷中央病院勤務。10年米コロンビア大(手外科/マイクロサージャリー=微小外科)留学。

骨粗鬆症が原因で骨折が起こりやすい部位は?

 骨粗鬆(そしょう)症が原因で、家の中の転倒などの比較的わずかな衝撃で起こり得る骨折を、骨脆弱(ぜいじゃく)性骨折といいます。この骨折が起こりやすい部位は前回ご紹介した背骨の他に手足の三つの部位があります。太ももの付け根(大腿(だいたい)骨近位部骨折)、腕の付け根(上腕骨近位部骨折)、手首(橈(とう)骨遠位端骨折)です【図1】

どのような治療をするの?

 大腿骨近位部骨折では、全身状態が許せば基本的には手術治療を行います。上腕骨近位部骨折や橈骨遠位端骨折では骨折のズレが大きいときに手術を行い、ズレが小さいときには保存的に(手術しないで)治療をします。

 代表的な手術方法として図に示したようなものがあります。骨髄の中に釘(くぎ)を挿入してその釘の中にスクリューを入れ骨を固定する▽プレートとスクリューを用いる▽人工関節で骨折部を置換する―などの方法です。骨折の部位や形態により最も適したやり方で、しかも受傷後可能な限り早い時期に手術します。そして早期から集中的にリハビリを行い、できるだけ早く元の日常生活に復帰できるようにするのです。

 最近では大腿骨近位部骨折の術後は、地域連携パスといって、急性期病院で手術を行った後、回復期専門のリハビリ病院や地元のかかりつけ医のもとで十分なリハビリを行い、自宅退院を目指す取り組みが全国的に実施されています。

新たな骨折をおこさないために

 日本のガイドラインでは女性は閉経以降、男性では50歳以降に軽微な外力で生じた、大腿骨近位部骨折または椎体骨折があれば、直ちに薬物治療を開始することを推奨しています。

 また同様に生じた前腕骨遠位端骨折、上腕骨近位部骨折、骨盤骨折、下腿骨折、または肋骨(ろっこつ)骨折がある場合は、骨密度(BMD)が若年成人平均値(YAM)の80%未満のときに薬物治療を開始することを推奨しています【表】

 ですから、閉経後女性と50歳以降の男性において、大腿骨近位部骨折や脊椎圧迫骨折があれば直ちに骨粗鬆症の治療を開始することになりますし、上腕骨近位部骨折や橈骨遠位端骨折では骨密度を測定して、治療開始するかどうかを判断することになります。

 大腿骨頚(けい)部骨折(近位部骨折のひとつ)や上腕骨近位部骨折は80歳以上で発生率が急激に上昇し、橈骨遠位端骨折は50~70歳の比較的活動性が高い年齢層での発生率が高く、70歳以上での発生率は上がらないという特徴があり、極めて対照的な特徴を有しています。

 橈骨遠位端骨折はあの大リーグで活躍した松井秀喜さんにも起きたことでも分かるように、骨粗鬆と関係ないことも多く、この骨折のみで治療開始にはなりませんが、骨密度検査を受けてみて、必要ならためらわずに治療を開始してほしいと思います。

 一般人と高齢者の骨折発症後の死亡率を調べたデータによると、橈骨遠位端骨折では両者に差はみられませんが、背骨の骨折と大腿骨近位部骨折では高齢者の死亡率が高くなります。

 最近の骨粗鬆症の治療薬は、骨密度を上昇させ、骨折を予防できることが分かっています。

 軽微な衝撃による骨折を起こした患者さんは、ぜひともかかりつけの医師と相談の上、骨粗鬆症の治療を始めてください。骨折の予防には転倒しないようにすることはもちろんが大切ですが、高齢者の転倒を完全に予防することはなかなか困難です。転倒しても骨折しにくいように、骨粗鬆症を改善しておくことが重要です。


 ◇倉敷中央病院((電)086―422―0210)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年05月04日 更新)

ページトップへ

ページトップへ