文字 

関節の話(1)股関節 倉敷中央病院・整形外科主任部長 塩出速雄

しおで・はやお 金光学園高、京都大医学部卒。公立豊岡病院整形外科、国立姫路病院整形外科などを経て、1992年から倉敷中央病院整形外科勤務。2015年4月、同主任部長。

 股関節は球形の大腿(だいたい)骨頭を寛骨臼が囲みこむ形になっています。このすれ合う部分の軟骨は表面が滑らかで、これと潤滑油としての働きがある関節液の効果により、摩擦がなく滑らかに動くことができます(図1)。

 大腿骨頭は正常では球形なので、股関節を曲げたり開いたりひねったり、いろいろな方向に動かすことができますが、形がひずんだり、表面が滑らかでなくなると、動かしにくくなったり、痛みなどのさまざまの症状が出ます(図2)。股関節疾患の中で多い変形性股関節症と、手術(人工股関節置換術)について説明します。

【変形性股関節症】

 股関節の軟骨がすり減ったり変形すると、痛み、動かしにくさ、さらには歩きにくくなるなどの症状が出ます。痛みは股関節の前方に出ることが多いのですが、太ももから膝の近くまで痛くなることがあります。お尻に痛みが出ることもありますが、お尻や太ももの痛みは腰の骨からの神経痛のこともあります。

 痛みは、初期は立ち上がり時や、階段昇降時に出ることが多いのですが、進行してくると、安静時も出るようになることがあります。動きにくさについては、靴下がはきにくい、足の爪切りができないなどです。

 股関節症は、小児期の股関節の発育が関与することが多いのですが、そのほかの病気、けがなどの後で起こることもあります。

 症状が軽い場合は鎮痛剤による治療、股関節周囲の筋力増強訓練、水中訓練、杖(つえ)の使用(痛みのない側につく)、減量(歩行時には体重の約3倍の力がかかります)などの治療法がありますが、症状が強いときには人工股関節置換術が行われます。

【人工股関節置換術】

 寛骨臼を丸く削ってカップという受け皿を取り付けます。大腿骨頭を切り取って大腿骨にはステムという部品を入れ、ステムの先端の骨頭部分とカップで滑らせるという構造です(図3)。この滑る部分はポリエチレンと金属の組み合わせが多いのですが、セラミックを用いることもあります。人工関節は、以前はポリエチレンの摩耗を考えて、60歳以上の人に行うとされていましたが、近年は改良が進み摩耗の少ないタイプが開発され、もっと若年の人に対しても行われるようになっています。

 人工関節は一生使うことになるので、手術後も定期的な点検が必要です。一般的に、手術後20年までに、人工関節の脱臼、感染、ゆるみなど何らかの理由で再手術を必要とするものが10~20%程度といわれています。しゃがむなど股関節を曲げすぎるときや、ひねるときに脱臼することがあり、手術後は畳の生活ではなく、いすやベッドなどの生活をお勧めします。体の他の部位に感染があると、その細菌が血液の流れで人工関節の部位に届いて感染を引き起こすことがあるので、虫歯、歯周病、水虫、膀胱(ぼうこう)炎などがあれば治療しておくことが必要です。また、人工関節自体に耐久性があっても、周囲の骨が弱くなるとゆるみにつながることもあるので、骨粗鬆(そしょう)症の治療も必要です。

 このように、注意が必要な点もありますが、人工関節にすると術後早期から痛みが軽くなり、日常の動作がしやすくなりますので、痛みが強い方にはお勧めします。



 倉敷中央病院((電)086―422―0210)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年05月18日 更新)

タグ: 倉敷中央病院

ページトップへ

ページトップへ