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関節の話(3)肩関節 倉敷中央病院整形外科副医長 高山和政

高山和政整形外科副医長

肩の痛みの話

 皆さんは肩の痛みと聞いて、何を一番に連想されるでしょうか。おそらく「五十肩」という言葉ではないでしょうか。では、そもそも「五十肩」とはいったい何なのでしょう? 今回はそんな肩の痛みについてお話したいと思います。

肩の痛みを引き起こす原因のいろいろ

 「五十肩」は「長命病」という名前で江戸時代の文献にも顔を出す、日本人とは付き合いの長い病気です。人生50年の時代には、肩が痛くなるまで使えたというのは、ある意味おめでたいことだったのかもしれません。その特徴は、いわば50歳代を中心に起こる、明らかな原因なく発症した肩の痛みと運動障害と言えますが、手術や特別なリハビリを行わなくても、半年程度で肩関節の機能が改善していくことが多いようです。

 しかし、いつまでも肩の痛みが続く場合はどうなのでしょう? 五十肩だと思っていたけれど、実は五十肩ではなかったとしたら…。そんな病気の代表格が「腱(けん)板断裂」なのです。

長引く肩の痛みに御用心!腱板断裂のお話

 腱板とは、上腕骨の周囲に付着している四つの小さな筋肉(棘(きょく)上筋、肩甲下筋、棘下筋、小円筋)の集まりを指します(図1)。肩の周囲には三角筋や大胸筋といった大きな筋群が覆っていますから、通常は体表から触れることができません。そのため「インナーマッスル(内側の筋肉)」という名前で呼ばれることもあります。四つの筋それぞれに役割分担がありますが、簡単にまとめて言えば「肩関節の方向性を定める筋肉たち」と言えると思います。ですから、そのうちの一つ、もしくは複数がダメージを受けると、肩の方向性が定まらず、結果として肩に痛みが生じたり、肩関節の動きが悪くなり、最悪の場合、肩が上がらない、ということにつながります。

 断裂の形態はさまざまですが、今回は断裂する頻度が最も多い「棘上筋」に的を絞って述べたいと思います。棘上筋は腱板の中で最も高い位置にあって、ちょうど上腕骨と肩峰にサンドイッチされるように存在しています。その機能としては肩関節の屈曲(前方向へ上げる)、外転(横方向へ上げる)などがありますが、上腕骨を上から押さえ込んでいる、というのも重要な役割と言えます。そのため、棘上筋が断裂(図2)すると、肩関節の可動域の低下や、肩を上げる途中で痛みを生じるといった症状を来します。

 しかし、もう一つ特徴的な症状があります。夜に横になると出現する痛み、「夜間痛」です。この夜間痛のために寝不足になり、診察を受けられる患者さんも少なくありません。一度断裂した腱板は自然に修復されることはまず無いため、症状の緩和には、何らかの治療的介入が望まれます。

腱板断裂 治療のお話

 腱板断裂イコール手術が必要、ではありません。リハビリや薬物治療で症状が緩和されることも多いのです。ただし、前述のように断裂した腱板が自然修復されることは原則ないので、活動性が高く、筋力を必要とする方々には手術的治療をお勧めしています。

 以下、手術治療について述べます。従来、腱板の手術といえば、大きな皮膚切開を加え、狭い中を展開して行うものでした。そのため手術後の痛みが強かったり、切開に伴う筋損傷により機能障害が出ることもありました。

 近年、腱板断裂の手術は関節鏡(内視鏡)で行えるようになってきています。5ミリ程度の切開を5カ所程度加え、そこから手術器具を挿入したり、アンカーという糸付きのネジを上腕骨に挿入して断裂した腱板を縫合することが可能です(図3)。この方法により、大事な筋肉を傷つけることなく手術ができ、また術後の痛みが従来に比べ少ないのが特徴です。手術は伝達麻酔という、腕一本だけ麻酔を効かせて行うことも可能で、その点においても体に非常に優しいものになっています。

 しかし、全ての手術が関節鏡で行えるわけではありません。長い年月放置された腱板断裂には腱自体の退縮や変性が生じ、来院した時にはすでに縫合が不可能になってしまっている場合が少なからずあります。従来、このような患者さんに対しては、日本ではなかなか有効な治療法がありませんでした。しかし、2014年4月から、日本でもリバース型人工肩関節が使用可能となり、腱板の修復が不可能で肩関節に機能障害を来している患者さんに対する有効な治療法になりつつあります(図4)。

 海外では数十年の使用実績があります。ただ、あくまで人工関節ですので、耐用年数などを考えると適応には慎重を要します。そのため、日本整形外科学会および日本肩関節学会が設ける基準をクリアしないと使用できません。

最後に

 肩の痛みについてお話しました。長引く肩の痛みの中には、意外な病気が隠れていることがあります。問題の解決には病院を受診するのが近道です。わからないことや不安なことがあれば、ぜひ私たち整形外科医に相談してみてください。



 倉敷中央病院((電)086―422―0210)

たかやま・かずまさ 兵庫県・六甲学院高、関西医大卒。日赤和歌山医療センター、京都大病院などを経て2012年から倉敷中央病院整形外科勤務。日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会公認スポーツ医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月06日 更新)

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