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男性不妊 晩婚化で注目 岡山県内、支援次々進まぬ受診

男性不妊外来で精液検査の結果を夫婦に説明する永井教授=岡山二人クリニック

 晩婚化や出産の高齢化が進む中、男性の不妊治療の必要性がクローズアップされている。不妊原因の半数近くは男性側にあるとされ、近年は精子の受精能力が35歳を境に急速に衰えることも分かってきたが、専門医不足などから治療に至る男性は依然少ない。岡山県が本年度から独自の助成を、同県内の医師が加わるNPO法人が今夏からホームページで情報発信を始めるなど、官民で治療を後押しする動きが目立っている。

 「精子に元気がないですね。治療していきましょう」。8月下旬、不妊治療専門の岡山二人クリニック(岡山市北区津高)。男性不妊外来を担当する川崎医科大の永井敦教授(泌尿器科学)が患者に語りかけた。

 男性の精液の検査では、前進する精子の割合など受精能力を示す数値がいずれも世界保健機関(WHO)の基準を下回っていた。

 40代目前の男性に対し、永井教授は「今受診してもらって良かった。遅れるほど治療の幅が狭まるから」と付け加えた。

35歳を境に

 男性不妊は精子の数が少ないほか、前進する精子の割合が低いなどで妊娠に至らない症状を指す。永井教授によると、35歳を境に急速に進行し治療が難しくなることが国内外の論文でここ数年知られつつある。

 原因の約4割は、精巣の静脈瘤(りゅう)や精液中に精子が見つからない無精子症などの疾患とされるが、残りは不明。治療には禁煙など生活習慣の見直しやサプリメントの摂取、静脈瘤を取り除く手術などがあり、これらによって妊娠につながる場合も多い。

 「問題は受診しないケース」と永井教授。妻が婦人科に通っても夫の検査を医師から勧められる例は少ないという。岡山大大学院保健学研究科の中塚幹也教授も「不妊治療に対する知識や姿勢は男女で温度差がある。夫に原因があるのに妻だけ治療しても妊娠は難しく、夫婦間でよく話し合うことが大切」と指摘する。

 とはいえ、永井教授によると、男性の不妊を専門とする泌尿器科医は全国で50人足らず。東京や大阪など大都市圏に偏り、地方での受診機会はごく限られる。無精子症の治療を経て昨秋女児が生まれた岡山県吉備中央町の男性(36)は「不妊の男性は女性と比べ情報が少なく、孤立しがち。治療も特別視されそうで友人に言いづらかった」と、精神的なサポートの充実も求める。

情報提供 

 一方で、男性の不妊治療を支援する動きも出てきた。

 独自に費用を助成する自治体が近年全国で相次ぎ、岡山県も精巣などから精子を直接採取する手術を受けた場合、体外受精、顕微授精といった夫婦の「特定不妊治療」に対する既存の助成制度(1回最大15万円)に同15万円を上乗せする。実績はまだないが「経済的負担を減らすだけでなく、男性側にも原因があるということを周知する狙いもある」(健康推進課)。倉敷市も本年度から独自の上乗せを導入しており、津山市も10月から始める予定。

 全国の泌尿器科医10人で昨年9月に立ち上げ、永井教授が理事を務めるNPO法人「男性不妊症ドクターズ」(事務局・東京)は、男性不妊に関するホームページを8月から運用。原因や診断・治療法、全国の専門クリニックなどを紹介しており、今後は講演会やセミナーも計画する。

 永井教授は「国内で年間4万人弱が体外受精などの生殖補助医療で生まれる時代。専門医の育成や産婦人科医と連携した相談体制の充実など不妊の男性への支援を進め、夫婦一緒に治療に取り組める環境をつくりたい」と話す。

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 男性不妊 WHOの調査によると、不妊の原因が男性だけにあるケースは24%、男女双方にあるのは24%で、全体の48%が男性側にも何らかの原因が存在する。精子の動きの不良は加齢に加え、ストレスや寝不足、喫煙などが影響しているとされる。具体的な疾患で最も多いのは、精巣の温度が上がり精子の動きが悪い「精索静脈瘤」で、手術で症状の改善が期待できる。「無精子症」は精巣から精子を直接採取する方法があり、顕微授精で妊娠につながるケースも多い。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月07日 更新)

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