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MとG 川崎医科大泌尿器科学教授 永井敦

 8月末に、夫婦で北海道に行きました。旅のメーンテーマは、余市の「ウイスキー」。試飲コーナーでまったり過ごしました。2人とも、食べたり飲んだり大好き人間です。

 そんな私の好きな店の一つが、フランス風居酒屋M。「酒と女性がぼくの人生。お楽しみください…と、亭主が申しております」。真正面の壁に仏語で書かれている詩の一節です。亭主とは口ひげの似合う物静かなマスター。奥さんがカウンターを切り盛りし、彼は、小さな厨房(ちゅうぼう)で料理担当。ペペロンチーノが実にうまい。

 カウンターからは彼の背中と横顔しか見えませんが、意外と客の話を聞いてほほえんでいるのを知っています。多くを語らず、それ以上に背中と笑みで語るマスター。ある日、奥さんの姿がなく、カウンターで奮闘していたのは、厨房にいるはずのマスター。慣れない接客による緊張感と懸命さがひしひしと伝わってきました。ほほえましくて今でもあの時の姿が忘れられません。(すみません!)

 ビールのうまい店Gは、20歳のころから付き合いのある店。マスターは当時まだ30前。頼れる兄貴的存在であり、笑顔で真正面から受け止めてくれました。自分に自信がなく、ひっこみ思案の私にとって、こんな人もいるのだと、驚いたものです。結婚式の後、カミさんと2人で行ったのもG。やはり笑顔で祝福してくれ、他のお客さんからも温かい言葉をいただきました。

 先日久々に訪れると、かつての私の指定席に、若い男性が…。彼いわく、「ビール好きの人間にとってGは聖地」。確かにGは、私の青春そのものです。今では多忙な事業家になられたマスターが、あのカウンターに再び立つことを願うのは私だけでしょうか。行きたくなる場所があり、会いたい人がいるっていいものですね。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月09日 更新)

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