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フットケアについてー形成外科の立場から 倉敷平成病院形成外科医長 石田泰久

石田泰久形成外科医長  

 形成外科とは外傷や皮膚腫瘍、難治性皮膚潰瘍、先天異常、傷跡の修正、美容外科など、乳幼児からご高齢の方まで、体表面の整容的な問題について外科的治療を中心に扱っている診療科です。その中でも当院では形成外科医の私を中心に、足の疾患、悩みに特化したフットケア外来を行っています。

 日常生活において、足は問題がない限りは意識をしませんが、痛みやしびれ、傷などの問題が生じると、歩行や日常生活に支障が生じ、ほんの些細(ささい)な傷でも大きな悩みとなることがあります。また足にさまざまな全身疾患の症状が出ることもあり、足の悩みでこられた方の精査をすると全身疾患が明らかになることもあります。

 全国的にみると、フットケア外来を標榜(ひょうぼう)する病院は少しずつ増加傾向にありますが、それを担当している診療科は、循環器科、血管外科、皮膚科、整形外科、そしてわれわれ形成外科などさまざまです。その中で私は整容的な問題、生活上での問題を意識して診療を行う形成外科医としての立場から「できる限り自分の足で痛みがないように元気に歩いていただく」を目標に外来診療しています。

 外来に来られるのは、足の難治性皮膚潰瘍、足・爪の変形、下肢血流障害、糖尿病性下肢障害、胼胝(べんち=たこ)、鶏眼(けいがん=うおのめ)など、足に関するさまざまな疾患・悩みを持つ方々です。中でも生命や下肢切断など重篤な問題になりやすいのが、下肢血流障害と糖尿病性下肢障害です。

 下肢血流障害はperipheral arterial disease(PAD=末梢動脈疾患)と言われており、閉塞性動脈硬化症(ASO)やバージャー病などを含めた動脈硬化等により末梢(まっしょう)動脈が狭窄(きょうさく)・閉塞する状態を指します。PADは、足が冷たい、しびれるといった症状に始まり、少し歩くと痛くなるので休みを挟みながら歩く(間歇=かんけつ=性歩行)→じっとしていても痛みがある(安静時疼=とう=痛)→足に潰瘍・壊疽(えそ)が生じる、といったように症状が進行していきます。

 この動脈硬化が進行したPADを起こす要因としては、高血圧、喫煙、糖尿病、高脂血症などがあり、生活習慣病との関わりが深く、生活習慣病患者の増加、高齢化とともにPADで苦しむ方も増えつつあります。

 また、もうひとつ挙げた糖尿病性下肢障害は、糖尿病による血流障害、神経障害、感染症の3要素による複合的な病態であり、PADを持っておられる方もいれば、PADはなくても傷からの感染により重症化する方もいます。特に傷の感染が生じた場合は一気に病状が進行するため、注意が必要です。

 実際の現場ではさまざまな疾患が複雑に絡んだケースも多いため、足を診る医師の診療のみならず、靴や装具については専門の装具士、専任看護師による処置や指導、生活習慣病を担当する内科医師、血流障害を治療する医師、歩行に問題がでた場合のリハビリにあたる理学療法士など、さまざまな角度からの集学的治療、チーム医療が必要となります。

 足に重篤な問題を抱えている患者さんのほとんどが最初は「ささいな傷」、「ちょっとしたタコ・ウオノメ」であったとおっしゃいます。また他人に足を見せるのが恥ずかしく、受診できなかったとおっしゃる方もおられます。しかし、前述のように小さな傷に大きな問題が潜んでいることも多々あります。普段はあまり意識しない足を、一日一度は気にかけてみて下さい。

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 倉敷平成病院(086―427―1111)

 いしだ・やすひさ 兵庫県立小野高、島根大医学部卒。神戸大医学部付属病院、六甲アイランド病院、北野病院などを経て、2012年4月から現職。日本形成外科学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年11月02日 更新)

タグ: 皮膚倉敷平成病院

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