文字 

(2)一過性脳虚血発作(TIA)とFAST 川崎医科大学 脳卒中医学教室講師 植村順一

植村順一講師

 皆さん、「一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack=TIA)」という言葉を知っていますか? 脳梗塞は有名人でなった方も多いですし…(長嶋監督や磯野貴理子さん、西城秀樹さん)。「脳梗塞はTVで見たことはあるけれども、TIAのことは知らないな」という方が多いかもしれません。

 TIAは脳梗塞発症時と同じ症状(言葉が出ない、左右の手足が動かない、感覚がおかしい)が24時間以内に改善する病気です。そのため、「一過性脳虚血発作」という病名がついています。すぐによくなることから「よくなったし、まあ病院に行くのは後でいいか」と軽く考えられることが多い病気です。しかし、TIAのある一部の人は短期間で脳梗塞になってしまい、取り返しがつかない状態になってしまいます。TIAは、いわば「崖っぷち疾患」と言えます。実際、TIA後に脳梗塞になる割合をまとめた報告によると、発症1週間後に脳梗塞をおよそ5%、半年後に10%再発するとされています。

 最近、われわれ医療者の側もTIAに対する認識を変えています。TIAは「外来で予約検査を行い、経過観察する予後のよい病気」から「即日精査加療を要する緊急疾患であり、早期治療が有効な病気」と捉えるようになりました。

 TIAが緊急疾患であるとしたら、どのような時にすぐに病院を受診すればよいのでしょうか。日本脳卒中協会は「FAST」(図)という言葉でTIAの啓蒙(けいもう)活動をしています。FASTは、TIAを考えないといけないF・A・S・Tで始まる言葉の略です。Fは「Face」で顔面麻痺(まひ)を意味します。笑顔を上手に作れるかどうかを確認して下さい。Aは「Arm」で両腕の麻痺を評価します。両腕を水平に挙上して、どちらかの腕が落下しないかどうかを調べる上肢バレー試験(図の中に絵があります)で麻痺がないかを確認しましょう。Sは「Speech」で言語の障害を評価します。呂律(ろれつ)が回っているか、話したい内容をきちんと話せているかどうかを確認しましょう。Tは「Time」で発症時間の確認をします。発症4時間30分以内であれば、アルテプラーゼ静注療法(t―PA)という脳梗塞の血栓を溶かし再開通させる薬を使用することができます。

 TIAで来院された方はどういう検査、治療が行われるのでしょうか。TIAも脳梗塞急性期と同じように、原因を突き止めそれに対する対応策を行っていきます。TIAの原因としては、頭に行く血管(内頸動脈と言います)の狭い部分から血栓が飛んだもの、心房細動という不整脈により心臓に血栓ができて頭に飛んだもの、高血圧により頭蓋内の血管が閉塞したものなど、さまざまな原因があります。原因に応じたオーダーメイドの治療が重要です。

 川崎医大脳卒中科に来院されたTIA疑いの患者は、当日頭部MRIを行い、脳梗塞になる可能性が高い方は入院していただきます。入院中に頸部血管エコー、経胸壁心エコー、経食道心エコー、24時間心電図、脳血管造影検査などを行い、適切な再発予防策を検討します。

 愛するご家族の方が脳梗塞になるのを予防するために「FAST」を覚えましょう。「FAST」でTIAと思った時は、すぐに医療機関を救急受診しましょう。それが、脳梗塞になる前の段階で食い止めるための一番の方法です。


 うえむら・じゅんいち 奈良県・東大寺学園高、大分医科大医学部卒。川崎医大脳卒中医学、岡山赤十字病院を経て現職。日本内科学会専門医・指導医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳神経超音波学会超音波検査士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年03月07日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ