文字 

文化と文明 岡山済生会総合病院院長 山本和秀

 懇親会の席で学生や研修医に「文化と文明の違いは?」と質問することがあります。私の答えは、司馬遼太郎さんの受け売りです。彼は「アメリカ素描」という本の中で、「文明はたれもが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なものをさすのに対し、文化はむしろ不合理なものであり、特定の集団(たとえば民族)においてのみ通用する特殊なもので、他に及ぼしがたいもの」と表現しています。

 若いころは「文化」の意味や内容にあまり興味がなく、客観的に分かりやすい科学に興味を持ち医学研究に没頭していました。ところが年を重ね後輩を仲間に勧誘するようになると、自分の所属している組織の良さや他の組織との違いを考えるようになりました。その中で、自分の価値観や倫理観が生まれ育った環境や所属している組織に強く影響されていることに気付かされました。

 そんな時、司馬遼太郎さんの本を読んで、自分が感じているものは組織の「文化」であると自覚しました。この価値観や倫理観はその組織の「文化」そのものであり、この「文化」がその組織のアイデンティティーを決めています。小さい単位であれば、家風といったものが家庭の「文化」であり、大きい単位であれば国家特有の「文化」が存在します。私たちは自分で独自に考え行動しているように見えても、その所属する組織から大きな影響を受けています。この組織特有の「文化」を背景に、新しい考え方や発見が生まれてくるわけで、「文化」は文明のゆりかごのようなものかもしれません。

 しかし、「文化」は目に見えない精神的なものだけに、壊れやすく消滅しやすいものでもあります。自分の所属する組織の「文化」を意識し、後輩へ継承していくことが大切であると思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年03月17日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ