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(4)心房細動と脳梗塞 川崎医科大学 脳卒中医学教室准教授 和田裕子

和田裕子准教授

 今回は、脳梗塞を起こす原因の一つである心房細動についてお話します。

 心房細動とは、不整脈の一つです。不整脈とは、一般的に、脈が飛ぶ、突然、脈が速くなる、胸がドキドキして苦しいなどの動悸(どうき)がする、といった脈の異常です。不整脈といっても、経過観察でよいものから、専門的な治療が必要なものまで多種多様ですが、脳梗塞の原因となる心房細動は、決して放置してはならないものです。

 心房細動は、心筋梗塞や心臓弁膜症といった持病がなくても、年を取るほど起こりやすくなる、いわば、加齢による不整脈で、高齢者では最も多い不整脈です。特に60歳を超えると、その頻度は高くなり、80歳以上では約10人に1人に心房細動があると言われています。

 心房細動があるからといって、今すぐ、生命の危険があるわけではありませんが、高齢者の場合、放置していると、脳梗塞を発症する危険度が高まります。特に70歳以上では、心房細動がある人は心房細動のない人と比べると、脳梗塞を発症する確率は約5倍高いと言われています。オシム元サッカー日本代表監督や長嶋茂雄巨人終身名誉監督も心房細動が原因で脳梗塞を起こしています。

 では、心房細動が起こると、心臓はどのような状態になり、脳梗塞が起こるのでしょうか?

 心房細動は、心臓の部屋の一つである「心房」が、小刻みに不規則に痙攣(けいれん)のように震える状態(図1左)のことで、心房細動が起こることによって、心房内に血液がよどんでしまい(図1中央)、その結果、心房内に血の塊(血栓)ができやすくなります(図1右)。この血栓が心室を経て大動脈の血流にのって脳に運ばれ、脳の血管を詰まらせてしまうと、脳梗塞となります(図2)。この心房細動が原因である脳梗塞は、心臓が原因であることにちなんで「心原性脳塞栓症」と呼ばれています。

 この心原性脳塞栓症は、他の原因で起こる脳梗塞よりも大きい脳梗塞を起こす確率が高く、重い手足の麻痺(まひ)や、思うように言葉が話せないといった失語症などの重篤な後遺症を残したりすることが多く、なんと、心原性脳塞栓症のうち、約52%の患者さんが死亡、寝たきり、要介護となっています。

 ここまでの話で、特に高齢者の場合、心房細動を放置しておくと、非常に危ないことがわかりました。心原性脳塞栓症を予防するには、心房細動に気づくことが大切であり、そのためには自らで早期発見することが必要です。

 その方法として、自己検脈法という簡便な自己チェック法を紹介します。もし、動悸を感じたら、図3に示すように、手首の親指側の動脈に反対の手の人さし指と中指と薬指を軽く当てるようにします。すると、血管の拍動を感じることができます。拍動の回数を測ると、正常では1分間に50~100回ぐらいですが、140回以上の場合や規則正しいリズムでない場合は、心房細動の可能性があります。このような異常に気付いた場合は、すぐに専門医(循環器内科もしくは脳卒中科)の診察を受けましょう。

 専門医で心房細動と診断を受けても、すべての患者さんが脳梗塞を起こすわけではありません。心房細動の患者さんのうち、脳梗塞を起こす危険性が高い患者さんには、心房の中に血栓(血の塊)ができることを予防する薬(抗凝固薬)を治療として開始する必要があります。抗凝固薬には、大きく分けて「ワルファリン」と「新規抗凝固薬」の2種類があります。これらの抗凝固薬にはそれぞれ利点と欠点がありますが、患者さんの状態(年齢、体重、肝臓や腎臓の機能、内服中の薬や過去にかかった病気など)に応じて適切に使用することで副作用を少なくし、心原性脳塞栓症の発症を予防することが可能です。

 心房細動は自分で発見できる不整脈であり、脈が早い、脈が飛ぶなどの自覚症状がある場合は、早めに専門医を受診されることをお勧めします。

 わだ・ゆうこ 大阪府立生野高、奈良県立医大卒。天理よろず相談所病院、大阪府済生会中津病院、西神戸医療センターを経て2015年より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本認知症学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年04月04日 更新)

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