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(5)脳梗塞の治療~血管内治療 川崎医科大学 脳神経外科学准教授 松原俊二

松原俊二准教授 

 脳梗塞は手足の軽いしびれやろれつが回らないといった軽症のタイプ、手足が完全に麻痺(まひ)(いわゆる半身不随)したり、言葉がまったく出ない(失語)、意識を失う(意識障害)などの重症のタイプがあります。

 重症のタイプは脳血管の本流、つまり太い部分の血管が詰まるために起こります。このタイプは強力な血栓溶解剤(t―PA)の点滴治療の効果に限界があり、無効な場合もしばしばあります。

 そこで、カテーテルという細い管を脚の付け根の血管から頭の中の血管まで運び、直接詰まった血管を開通させる方法がとられています。以前は血栓溶解剤を脳動脈から注入し、血栓を溶かしたり、風船つきカテーテルで血栓を破砕させる方法でしたが、数年前にメルシーというコルクの栓抜きのようなカテーテルシステムが日本に導入され、これをきっかけに血栓を回収する時代に入りました。その後も次々と新製品が開発されていますが、現時点では、ステント型血栓回収器具(ステントリトリーバー)と血栓吸引カテーテル(ペナンブラシステム)の2種類が主軸となり、閉塞した血管を高率に再開通させることができるようになっています。

I ステント型血栓回収器具による血栓回収

 ステントとは金属の細い網目状の筒であり、動脈硬化などで、血液がうまく流れなくなってしまった狭い血管を広げるための医療器具です。本来、脚の付け根の血管から折りたたまれた状態でその部分に運びこみ、そこで広げて血管内に植え込むのですが、血栓回収専用のステントは詰まった血管で拡張させ、血栓を絡め、ステントごと血栓を引き戻して回収するものです(図1)

 ステントは拡張前1mm程度の細さですが、血栓の部分では3mmから6mmまで広がるようになっています。引き戻す時には母血管の血流を一時遮断し、血栓の破片が脳の末梢(まっしょう)へ飛んでいかないようにしています。この方法を発症から6時間以内に開始することができれば、約7~8割の患者さんの血管が以前の状態になり、そのうちの半数の方が、元の社会生活を送れるようになります。欧米での五つの大規模臨床試験の結果が最近、論文発表されましたが、それによると、59―88%の患者さんの閉塞血管で有効な再開通が得られたと報告され、この治療方法の効果が確かめられました。

II ペナンブラカテーテルによる血栓吸引除去

 「ペナンブラカテーテル(ペナンブラ社、米国)」という細くて柔らかいカテーテルを血栓の部位まで誘導し、専用のポンプに接続、血栓を吸い取るシステムです。頭の中の強く曲がった細い血管に安全に運び込め、かつ血栓を吸い取れる太さのカテーテルは、今まで世の中に存在しませんでした。しかし、画期的な高性能カテーテルの登場により、それが実行可能となりました。

 カテーテルは太さの異なるものが3種類あり、閉塞部位や血管の蛇行の強さによって使い分けます。最新のマックスシリーズは、吸引力も強く、高い評価を受けています。今まで回復をあきらめていた重症の患者さんでも、この恩恵をうけることができるようになる時代となりました。血栓を直接カテーテルで吸い取るアダプト法(図2)であれば、再開通率は約80%、3カ月後に家庭復帰できる確率は約40%と報告されています。



 上記の二つの器具は、どちらも詰まった血管を再開通させるまでの時間が早く、治療開始から1時間前後で脳血流を回復させることができます。実際われわれの施設でも、脳梗塞の後遺症で寝たきりになることが以前より少なくなってきており、有効性を実感しています。

 ただし、この血管内手術による治療を受けられるのは、岡山県内でもいくつかの病院に限られていること、また詰まった血管にもよりますが、原則として発症から6時間以内に開始しなければならないという時間の問題も残されています。病院内での初期診察から検査を経て、この血栓回収に至るまでの時間を1分でも早くするための院内体制の整備も必要です。血栓を回収する器具の開発は現在も進んでおり、今後もこの分野の進歩が期待されています。

 まつばら・しゅんじ 香川県立高松高、徳島大医学部卒。徳島大付属病院、中村市民病院、福岡和白病院、秋田県立脳血管研究センターなどを経て現職。日本脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会指導医、日本脳卒中学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年04月18日 更新)

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