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(1)「更年期」と「更年期障害」について 倉敷成人病センター産婦人科部長 西内敏文

西内敏文産婦人科部長

 テレビコマーシャルや日常会話で、「最近顔が急に熱くなったり、ふらふらしたりするの。私更年期かしら?」とよく耳にします。そんなごく身近な更年期障害についてお話します。

 にあるように、女性のライフステージは大きく「思春期」「成熟期」「更年期」「高齢期」「老年期」に分かれます。したがって、更年期はその年代を指すもので病気ではなく、更年期障害が病気です。更年期は一般的に閉経(臨床的には1年以上の無月経)前後の±5年間をいいます。日本人女性の平均閉経年齢は49・5歳ですが、もちろん個人差もあり、40歳代前半で閉経を迎える女性がいる一方、60歳近くまで月経がみられる女性もいますので、個別の対応も必要になります。

 のように更年期は卵巣から分泌される女性ホルモンの一種である、エストロゲンの低下によっておこる生理現象です。ではその年代で女性全員が体調の悪さを感じるかというと、そうではありません。症状を左右するのは複数の要因が関連していると考えられています。

 日本産科婦人科学会は【閉経の前後5年間を更年期といい、この期間に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障を来す病態を更年期障害とする】と定義しています。わかりやすく言い換えると、50歳前後で、月経不順(多くは3か月から半年程度月経がない)の女性が、のぼせ・発汗・めまい・肩こりなどさまざまな症状を訴え、内科をはじめとする他の科でも異常が見つからない。その症状は強く、少しでも軽くならないと生活できない。といった感じでしょうか。これは違う、あれも違うとあらゆる疾患を否定し残りはこれか、とつける診断を除外診断といい、更年期障害もその一つです。

 それでは、実際の診断の流れについて説明します。その患者さんが「更年期」なのかを判断し、更年期であれば更年期障害を疑う症状を伴っているかを確認します。まず年齢です。個人差を考慮しても、40~60歳までが対象です。30歳代や、60歳を超えて感じた症状は更年期症状ではないと考えます。

 次に月経の順、不順をチェックします。通常月経周期(月経が始まった日から、次の月経の前日までの日数)は25日から38日で、平均は28日です。この月経周期がいつもと変わらなければ更年期の可能性は低いと考えます。逆に月経周期にバラツキがあれば、更年期を十分に疑います。

 どちらの場合も、原則血液検査を行います。血液検査の項目はエストロゲン、その中で特にエストラジオール(E2)とFSH(卵胞刺激ホルモン)は必ず行います。卵巣機能の低下が、更年期に移行するための引き金になるわけですから、女性ホルモンの代表であるE2と、卵巣の機能がおとなしくなってくると、早めに気づき「働きなさい」とその分泌量を増やす、FSHをチェックします。更年期の診断基準はE2が20pg/ml以下でかつFSHが40mIU/ml以上であれば、「更年期」に入ったあるいは、「更年期」を生きていることになります。

 その他の項目としては、脂質・肝酵素・甲状腺ホルモンなども調べることもあります。脂質は閉経を境に異常値が見つかるケースがあり、肝酵素はもし異常高値なら、更年期症状とも思われた倦怠(けんたい)感が実は肝臓系の病気だったと診断の一助となるかもしれません。甲状腺ホルモンを調べるのは、甲状腺疾患は女性に多く、のようにその症状が更年期症状と似ているからです。甲状腺機能亢進(こうしん)症の代表であるバセドウ病は女性が男性の4倍で、好発年齢は20~50歳代です。甲状腺機能低下症の代表である橋本病は男性の12倍と圧倒的に女性に多く、好発年齢が20~60歳代でいずれも更年期女性は甲状腺疾患の好発年齢に相当します。

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 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 にしうち・としふみ 高知学芸高校、高知医科大学医学部卒。高知医科大学附属病院勤務などを経て、1995年4月より現職。日本産科婦人科学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年07月18日 更新)

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