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患者会「あげは会」との関わり 川崎医科大病院長 園尾博司

 1984年、36歳の時に川崎医大乳腺甲状腺外科に赴任した。当時は本人にはがん告知は行われておらず、家族のみに告げる時代であった。3年後に日本で乳房温存術が始まり、欧米に倣って急速にがん告知が行われるようになった。本格的ながん告知は乳がんから始まったのである。

 当時は乳房温存術の適応や抗がん剤の使用基準が施設によりまちまちで、医師の説明も徹底されておらず患者さんの不安も強かった。このような背景のもと、赴任2年目に当院の患者さんの要望で患者会「あげは会」が誕生し、顧問に就いた。

 当初は休日に川崎医大の横のふたご山にある「老人憩いの家」に外来看護師と共に出向き、乳がんの話を度々行った。その後、2代目会長に受け継がれ、会員数は70人を数えた。教授の任期が終わるまでの28年間、毎年欠かさず春の講演会(後に市民にも公開)・懇親会、秋の日帰り旅行を続けてきた。当院の医師や看護師も参加してくれた。白衣を脱いだお付き合いにより患者さんの本音や悩みを聞くことができた。それは患者さんに安心を与えるとともに、自分の診療の幅を広げてくれた。

 終盤の6年間、山陽新聞に案内文を掲載してもらって3カ月ごとに午後の2時間、患者会の有志同席のもと、当科の医師や看護師の協力を得て患者さんの悩み相談に応じた。主治医の名前や病院名を伏せての相談とした。12年前に初めて発刊され2年ごとに改訂されている「乳がん診療ガイドライン」と自分の経験を踏まえ、本音で説明した。患者会の人からも助言をいただいた。

 すっきりした明るい顔になって帰っていく患者さんを見て、同じ体験をした人の言葉は心の奥に届き、正しい知識は患者さんの心を強くすることを実感した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年10月20日 更新)

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