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心の歌 川崎医科大病院長 園尾 博司

 毎年この時期になるとノーベル賞の話題で盛り上がる。今年も大隈良典氏がノーベル医学生理学賞を受賞された。3年連続の日本人の受賞は誠に誇らしい。また、ボブ・ディラン氏のノーベル文学賞は驚きであり、1960~70年代に青春を過ごしたわれわれ団塊の世代にはディラン氏やビートルズは、フォークソングと同様、懐かしい良い思い出でもある。良い歌は良い歌詞と音楽が一体化し、過ぎし日の人生の一場面を思い出させてくれる。

 最近は高齢を迎えた団塊の世代を意識してか、演歌や健康をテーマにした番組が目につくようになった。若いころに歌った思い入れの深い切ない演歌を一人しみじみと聴くと、ふと涙することもある。歌は、曲という聴覚と歌詞という文学が一体化したものであり、素晴らしい歌は理屈なしに心の奥底に響くものでもあるように思う。クラシック、ジャズ、映画音楽なども素晴らしいが、民謡や演歌は日本独自の文化であり、日本人の心の歌でもある。

 長く関わった乳がん患者会の懇親会で好んで歌った、すぎもとまさとさんの「吾亦紅(われもこう)」の歌詞は、自分と郷里の徳島に残してきた母親が重なった。吉幾三さんの歌も情感があって好きである。徳島民謡「祖谷(いや)の粉ひき節」も患者さんに頼まれてよく唄(うた)った。歌詞には「祖谷のかずら橋しゃ~、ゆらゆ~ら揺れど主と手を引きゃ怖くない~」と唄われている。それは「ご主人やご家族とともに私もあなたを支えるから心配しないで」という患者さんへのメッセージでもあった。

 テレビ、スマホ、メールなど視覚が優先されている忙しい世の中であるが、聴覚を大切にした味わい深い豊かな人生を歩みたいものである。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年10月27日 更新)

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