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(6)肺高血圧症~その正体と忍び寄る影にせまる 岡山赤十字病院循環器内科副部長 福家聡一郎

福家聡一郎循環器内科副部長

 肺高血圧とは肺の動脈の血圧が上昇する病気ですが、多くの方はピンとこないかもしれません。

 人体には、体循環と肺循環という大きく分けて二つの循環系が存在します。体循環は全身に血液を送り出すための血管で、ポンプ機能は左心室が担います。その動脈圧は、簡便には上腕(二の腕)の血圧をカフで測定しますので、おなじみでしょう。血圧の正常値は130/85mmHg未満で、140/90mmHg以上に上昇すると高血圧の診断となり、治療が必要です。

 一方、肺循環は肺のみに血液を送り出し、酸素と二酸化炭素を交換するための血管で、ポンプ機能は右心室が担います。この肺循環の動脈の平均血圧は、正常では15mmHg未満と非常に低く抑えられていますが、肺の血管が障害されて平均肺動脈圧が25mmHg以上となると肺高血圧の診断となり、治療が必要となります。

症状と診断

 運動時の息切れや胸痛、めまい、つかれやすさ、足首のむくみなどがあります。どれも体調不良、老化やさまざまな病気で出る症状なので、自覚症状から肺高血圧と診断するのは難しいです。

 もし肺高血圧が疑われる方が外来に来られた場合は、医師はまず胸のレントゲン、心電図、採血や心臓超音波検査を行うでしょう。それらの検査で強く肺高血圧が疑われる場合は、入院して心臓カテーテル検査を勧められることが多いです。カテーテルとは管(くだ)のことで、局所麻酔をして細い管を首の静脈や足の付け根の静脈から、心臓を通り越し肺の動脈まで挿入して、直接、肺動脈の血圧を測定し、肺高血圧の診断が確定します。心臓カテーテル検査は体に針を刺したり薬を使用したりする侵襲的な検査で、合併症も起こす可能性もあるため、必要性のある方にのみ行います。

膠原病との関係

 肺血管が障害されると肺高血圧になりますが、具体的には肺血管が細くなったり、詰まったり、毛細血管の数が減ったりします。また肺障害による低酸素や心不全でも肺高血圧になります。膠原(こうげん)病ではさまざまなタイプの肺血管障害を起こし、またそれらが合併することもよくあります。膠原病別による肺高血圧の合併率は、多発性筋炎・皮膚筋炎では5%以下、全身性エリトマトーデスや全身性強皮症では10%前後、混合性結合組織病では15%程度と報告されています。

 膠原病に肺高血圧を合併すると、予後が悪くなる(つまり、長生きしにくくなる)ことが重大な問題です。膠原病患者さんに関しては、なるべく早い時期に肺高血圧を診断して、治療を開始する必要があるでしょう。

早期診断のさらにその前へ

 肺高血圧は、心臓カテーテル検査において平均肺動脈圧が25mmHg以上ということで診断できます。外来では心臓超音波検査で肺動脈圧を推定しますが、軽症の場合には難しい場合もあります。その場合、精密検査としての心臓カテーテル検査を勧めることができず、診断のタイミングが遅れてしまうことが問題です。

 肺高血圧の前段階として、運動誘発性肺高血圧という状態があります。運動をすると心臓がしっかり働き肺の血流も増えて肺動脈圧も上昇しますが、正常では30mmHgを超えないと言われています。しかし、運動誘発性肺高血圧という状態では運動により肺動脈圧が30mmHgを超えてきます。当センターでは、外来での運動負荷を併用した心臓超音波検査により、軽症の肺高血圧や運動誘発性肺高血圧状態の検出をすることを積極的に行っています。現時点では、運動誘発性肺高血圧状態のかたに治療を行うことはありませんが、肺高血圧の前段階として、きめ細やかなフォローアップを行っています。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 ふけ・そういちろう 香川・高松高校、岡山大学、岡山大学大学院卒。KKR高松病院(香川)、金田病院(真庭)、岡山医療センター、太田病院(新見)、小畠病院(福山)、岡山大学病院などを経て2014年4月より現職。博士(医学)、麻酔科標榜医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医、日本脈管学会認定脈管専門医、卒後臨床研修指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年11月21日 更新)

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