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(32)肺がんの胸腔鏡手術・気胸の治療 岡山赤十字病院 森山重治呼吸器外科部長

森山重治呼吸器外科部長

1200例執刀 全国トップクラス

 ―これまでの肺がんの手術件数は。

 森山 トータルで約1500例ほどです。このうち1200例は胸腔(きょうくう)鏡手術です。私の知る限り、胸腔鏡手術執刀件数は全国でもトップクラスです。病院のホームページを見て、関西や九州などからも胸腔鏡手術を希望する患者さんが来院されます。

 ―胸腔鏡手術の方法を教えてください。

 森山 胸腔鏡補助下と完全胸腔鏡下の2種類の方法があります。胸腔鏡は長さ30センチほどの棒状のもので、先端に照明とテレビカメラが付いています。胸腔鏡補助下ではカメラ機能は使わずに照明で術野(目で見える部分)を照らして肉眼で見ながら手術をします。一方、完全胸腔鏡下は術野をモニター画面で見ながら手術をします。

 ―患者にとってメリットが大きいのはどちらですか。

 森山 胸腔鏡補助下は肉眼で見るために6センチ以上の切開が必要ですが、完全胸腔鏡下では、切除した肺を取り出すために必要な3センチで済みます。さらにモニター画面で術野を拡大視することができるため、胸腔鏡補助下より精度の高い手術が可能です。私は胸腔鏡補助下手術による成績が開胸手術と比較して遜色がないことを何度も検証した上で、2009年から患者のメリットがより大きい完全胸腔鏡下に移行しました。

 ―胸腔鏡手術は傷が小さいので患者にとってありがたいですね。

 森山 傷の大きさだけではありません。呼吸するために必要な筋肉を切らず肋骨(ろっこつ)も開かないため、痛みが軽く、呼吸機能の低下も小さく、術後の合併症や死亡が少ないことが当院のデータからも証明されています。開胸手術は2週間以上の入院が必要ですが、当院の術後入院期間は平均6・8日で、全国で最も短い施設の一つです。

 ―現在は開胸手術よりも胸腔鏡手術の方が主流なのでしょうか。

 森山 徐々に増えてはいますが、全国で行われる肺がん手術のうち、胸腔鏡手術は約60%、完全胸腔鏡下に限ると約40%しか行われていません。肺がんの手術は心臓から肺につながる肺動脈・肺静脈を傷付けずに剥離しリンパ節をきれいに切除しなければなりません。これを完全胸腔鏡下で行うには繊細で高度な技量が必要です。全国から患者さんが集まる有名病院の中には「がんを完全に切除するには開胸して病変部に触れながら手術をする必要がある」との理由で胸腔鏡手術をしないところもあります。

 ―先生の主張とは随分異なりますね。

 森山 胸腔鏡手術が始まった当初はそういう一面もありました。しかし、近年は急速に画像診断の性能が向上し、3D画像で腫瘍や血管の構築などを術前に把握することができ、さらに手術器具の改良や手技の工夫によって、触診に頼らなくても安全な手術ができるようになりました。自身の手術症例を分析した結果、完全胸腔鏡下手術の方が開胸手術よりも術後の経過が順調なことが分かっています。胸腔鏡手術の反対派は次第に減り、学会を挙げて胸腔鏡手術の訓練や技術認定制度の創設に積極的になっています。私も10年以上前から中四国のリーダーとしてその活動に関わっています。

 ―12年には中四国初の気胸センターを開設し、センター長に就任されました。

 森山 気胸とは肺の表面に穴が開いてパンクした状態を言います。急に胸が痛くなったり呼吸がしづらくなったりします。外傷性気胸と、肺の病気が原因で偶発的に起こる自然気胸に分類されます。自然気胸はさらに肺気腫などの病気を持った高齢者がなりやすい続発性と、若い人がかかりやすい原発性があり、病態によって治療方法が異なります。

 ―気胸センター開設の経緯は。

 森山 気胸はいつ発症するか分からず、十分な知識を持たずに治療をすると命を失うこともあります。私自身が日本気胸・嚢胞(のうほう)性肺疾患学会の理事を務めていることと、当院は呼吸器内科、呼吸器外科、救命救急のスタッフが充実しており、24時間365日、どんな気胸にも対応できる体制が整っているため、開設しました。

 ―気胸センターが果たす役割は。

 森山 治療困難症例の受け皿、中四国における気胸研究の拠点となることを目指しています。難治性気胸に対する気管支充填(じゅうてん)術は当院で開発した治療法で、世界に広まっています。現在は未成年での喫煙が原因と考えられる若年者の続発性気胸の病態解明の研究に取り組んでいます。

     ◇

 岡山赤十字病院(岡山市北区青江2の1の1、086―222―8811)

 もりやま・しげはる 朝日高、岡山大医学部卒。広島県厚生連府中総合病院、岡山大第2外科講師を経て、1995年に岡山赤十字病院へ。2006年、胸腔鏡手術の功績により、山陽新聞社会事業団の松岡良明賞を受賞した。08年から呼吸器外科部長。12年から気胸センター長、14年からがんセンター長を併任する。日本外科学会、日本胸部外科学会、日本呼吸器内視鏡学会、日本呼吸器外科学会の各指導医。岡山大医学部臨床教授、医学博士。62歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年11月21日 更新)

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